ぷーわぷーわぷーっ

※『ひらけーごまっ』と同主設定。ジェームズが遂にリリーを落とした!というシリウスの報告会。





「え。リリーったらついに妥協しちゃったの?」

そう言ったのはホグワーツで体術の教師を始めてから数年が経ったユキ・吉田である。

此処は彼女の部屋の一角で、テーブルの上には紅茶の入ったカップが3つ並び、その中央には屋敷僕妖精の作ったクッキーや焼き菓子がこれでもかと盛られていた。
クッキーに手を伸ばしていたシリウス・ブラックが、ユキの言葉を聞いて思わず動きを止める。

「おま、妥協って…」
「まぁ確かにそう思っても仕方がないですよね」

そんな二人を眺めながら、レギュラス・ブラックが優雅に紅茶をすする。胸の位置まであげていたソーサーをカップと共に下ろし、机にそっと置く。焼き菓子も一口サイズにフォークで切ってゆっくりと咀嚼する。
その様は目の前でクッキーを鷲掴みしようとしている男と同じ育ちだとはとてもじゃないが思えない。

「んだよお前まで」
「考えてもみて下さいよ。最近は兎も角、今までのエバンズ先輩の態度は決して好意的な物ではありませんでしたから」

思い出されるのはリリーがジェームズを殴る様。…ああ、と納得してしまうのは親友といえど仕方のない事だ。

「まあ、な…」
「幾ら傲慢な所とかが緩和されてきたにしろ、あれほど彼女の嫌がる事をしてきたんですよ?」
「お前辛辣だな…」
「事実ですから」

冷たいというよりも簡潔に話すレギュラスに、シリウスもまぁなーと言いながら頭を掻く。

「まぁ、女は愛するよりも愛されるほうが幸せっていうしねぇ」
「そういうものですかね」
「ほら、ジェームズって顔は良いんでしょ?」
「なんでそんな疑問系なんだよ」
「いや、私の基準は日本人だから」
「まぁ顔だけならスリザリン寮でも女子の間では人気ですね」
「でしょ?んで、頭も要領も良いから将来は闇払いとか魔法省とかよりどりみどりの優良株な訳でしょ」
「まあ…」

ユキはボリボリとクッキーを貪り、紅茶を一口飲んで喉を潤した。

「キープしとくにこしたことはないよね」

さも当然といった風に語るユキにシリウスは固まり、レギュラスは目を瞬かせた。

「……………女って怖ぇ…」

げっそりとしながらシリウスが言うと、ユキは楽しそうな声を漏らした。

「因みにユキさん」
「んー?」
「僕も優良株なんですけど、キープしとくつもりはありませんか?」
「は…はあっ!?」
「レギュを?」
「はい。成績は優秀なほうですし、顔だって悪くないと思います。」
「お、おいっ」
「それに実家は魔法界に顔の利くブラック家ですし、それなりに裕福です」
「なっ、そ、それなら俺だって!!」
「兄さんは家を出た身でしょう。実質無一文じゃないですか」
「くっ…!」

悔しそうな声を出すシリウスにレギュラスは意地悪く笑う。その様は過去の二人には見られなかった楽しげなもので。

「それにしてもリリーはどうしてジェームズなんだろうねえ?」
「といいますと?」
「いやまあ、要するにセブが気の毒だなと思った訳でね」

ユキ曰わく、セブルスは幼なじみであるリリーの事が昔から好きだから、という事であるが、シリウスとレギュラスはそんなユキを見てなんとも言えない気持ちになる。
二人から言わせてみれば入学当初は兎も角、セブルスはリリーの事を幼なじみとして認識しているのだ。初恋、とでも言えばいいだろうか。そしてその恋はとっくの昔に新たなモノへと塗り替えられているのだと。
二人はお互いに顔を見合わせ、自身の境遇を重ねて溜め息を吐いた。

「…ええ本当に。気の毒ですよね」
「まあ、今回ばかりは俺もスネイプに同情するぜ」
「ねー」

そんな三人のすれ違いはそのままに、既に何回目か数えるのをやめたブラック兄弟とユキのお茶会は過ぎていくのであった。







セブルス→リリーという原作での理を知っているユキは、其処に自分が入るという事は一切思考回路に無い。割と好かれてはいるだろうけど、師弟とか世話の掛かる奴とかそんな関係だろうと。