不死鳥と魔女



「(ちっ、しくじっちまったよい…)」

海水で弱った所に海楼石の銃弾を数発くらった。能力者の俺は当然力が入らなくなり、そこにつけこまれて捕まってしまった。そして今現在は海楼石の手錠をかけられ、ずぶ濡れのまま鉄格子に閉じ込められている。

島が近いからといつものように偵察に出てから3日。俺の帰還予定までまだ2日はある。オヤジ達が可笑しいと気付いてからこの場所を見つけるのにさらにかかるだろうし、それまでに移動が無いとは限らない。

「(寒ぃ…)」

春島の海域の筈だがずぶ濡れだった身体に、石造りの洞窟は肌寒い。俺を捕まえた奴らはどこの小者かは知らねえが、海賊というよりは奴隷狩り専門の賊のようだった。
俺が人身売買にかけられようと、行方が不
明になろうと、家族は総出で助けにくるだろう。それが白髭海賊団だし、それが俺の家族だ。とはいえオヤジに余計な負担をかけるのは本意ではないから、早々に逃げ出す手立てを立てなければならない。

洞窟は狭く海に面しているからか見張りが一人表近くに居るだけで、他の仲間は再び狩りに出掛けているようだ。
俺が入れられた鉄格子は洞窟の一番奥で、その鉄格子の数メートル先にはもう一つ鉄格子があり、二重の檻になっている。さらに能力者に対する対処法なのか、この檻には海楼石が仕込んであるようだった。
海楼石の檻の向かい側には一般人らしき女子供が数人捕らえられていて、泣き叫ぶ事も止めて隅に静かに固まってうずくまっていた。

「あのー…」
「………あ?」

外はいつの間にか暗くなっているようで、鴎の声もせず静かな波音だけが響いていた。そんな中小声で発せられた声に数泊遅れて反応すると、海楼石の檻の向こう側に捕まっていた女がこちらに背を向けて座っていた。

「すいません、腰に刺さっている木の棒を取って渡してくれませんか?どうしても届かなくて。」

他の捕まった奴らは寝ているようで、檻の外に目を向けると見張りはうたた寝をしているようだった。小さく舌打ちをしてから
、怠い身体を引きずりながら檻に近付き、鉄格子に触らないようにその女に言われるがまま腰からソレを引き抜いた。普段ならこんな事やらないだろうが、この時の俺は相当参っていたんだと思う。

「ほらよい。」
「ありがとうございます。」

振り向いた女の顔に視線を向けると、その顔は伏せられており見ることはかなわなかったが、サラリと流れる黒髪と伏せられた瞳、土で汚れた身体に理由も無く魅入っていた。コッチ向かねぇかねい、なんて。
しかし彼女が小さく何かを呟いた次の瞬間にカチリという音がして、視線を落とした。
ジャラと音をさせて彼女の手首から外された手錠。その光景に目を見張らせ、思わずその手元を凝視した。

「貴方のも外します。鍵穴をコッチに向けて下さい。」
「は…」
「”アロホモーラ”」

先程手渡した木の棒が海楼石の手錠の鍵穴に向けられる。そして彼女が再び呟いた次の瞬間、カチリという音。軽く手に力を入れて両手を離せばゴトリという音と共に離れた手錠。

「、何をしたんだよい。」
「あまり時間はありません。話は此処を出てからにしませんか?」
「…そうだねい。」

外れたのを確認すると彼女は外を気にするように向こうを向いてしまう。能力者だろうか。まあそれも此処を出てから本人に聞けばいいだけの話だ。海楼石の手錠が外れて幾分か動きやすくなった身体。そのまま天井を見つめて溜め息を吐いた。この檻もどうにかしてもらった方が良さそうだ。

「あー、この檻…「何をしている!!」」
「あ…」

どうやら異変に気がついたらしく慌ただしく駆け寄ってくる男。まだ海楼石の檻から出れていない俺よりも彼女のほうが危険ではないだろうか。彼女があの糞野郎に触れられるのを想像して眉間に皺が寄る。
男の声に目を覚ましたのか、隅の女子供が小さく息を飲んだ。

ガァンッ

「てめぇ等まだ自分の立場が分かって無えようだな!!」

ガァンッ

男が乱暴に鉄格子を蹴る。その度に響き渡る音にガタガタと震える女子供。威圧的な態度の奴は一般人には恐怖の対象なのだろう。海楼石の檻さえ無ければすぐにでも息の根を止めてやるのに、と思いつつ目の前の女に目を向ける。顔は見えないが、震えている様子は無い。

「うるさ…」
「(随分と肝の据わった女だねい…)」

細い身体、簡単に折れそうな手足。能力者なのかもしれないが到底戦えそうにないのに、面倒そうな声をあげる女に俺の興味はやまない。ただの無知か、驕りか、それともそれだけの実力があるのか。
そして女は木の棒を男に向けて、叫んだ。

「”インカーセラス”!」
「なっ…うわぁぁあっっ!?」

何処からともなく出てきたロープが男を縛り上げる。バランスを崩した男はその場にどさりと倒れる。力は強いようで、体をギュウギュウ締め付けている音が聞こえてくるくらいだ。

「ぐ、ぅあっ…!!」
「ちょ、まだ煩いな。”シレンシオ”!」
「…!……!!」

再び呟いた言葉で遂には声を発さなくなった男。その顔は徐々に恐怖に染まっていく。

「あーやっと静かになった……ん?」
「あぁ、潮の流れが変わったねい。船が戻ってきたよい。」

騒ぎを聞きつけたのかのように戻ってきた船。それに溜め息を吐いた女にくくっと笑う。

「笑ってる場合じゃないですよ。今度は手伝って貰いますよ、『不死鳥のマルコ』さん。」
「!あぁ、任せとけい。」

そうしてカチリという音と共に開けられた檻。漸く見ることが出来た彼女の顔に満足した俺は船を奪うべく、ジッとしていて固まった身体を伸ばした。





アロホモーラ=開け
インカーセラス=縛れ
シレンシオ=黙れ
現代→魔法→トリップ。趣味は魔法薬学で、新しい素材を手に入れる為なら結構過激な事も出来ちゃう子。原作有知だけど、読んだのが遥か昔過ぎる。白ヒゲにするなら救済したい。