不死鳥と魔女III

「オメェ、俺の娘になるか?」

マルコが突然連れてきた女、吉田ユキちゃん。恩人らしい彼女を、当たり前のように自分のモノだと公言するマルコにクルー達は唖然としながらも盛り上がり開かれた宴。
其処でオヤジが至極面白そうにそう言ったのだった。騒然とするクルーを後目に、マルコは若干首を傾げてやがる。たぶん、既に俺のモノなのに何言ってんだとか訳分かんねえ事考えてんだろう。
だけど、マルコの女になるって事は俺達の家族になるという事だ。海賊だから戦闘による負傷などの諸々の事情でクルーの入れ替わりは多々あるが、隊長格の縁者になるっつーことはあまり事例の無い事だった。しかもそれが我らが一番隊隊長の女になるというのだからそれはもう大事件モノだ。
各々思うところはあるものの樽のジョッキを片手に、皆がユキちゃんに注目していた。するとユキちゃんはパチリと瞬きをしてから宙を仰ぐようにオヤジを見上げた。

「娘…ですか」
「グララララ!!そうだ!」
「うーん…」

そこら辺の娼婦ならそれはもう喜んで飛び付くだろう提案だ。言ってはなんだが、白ヒゲという最強の後ろ盾を手に入れ、更にはマルコという悔しい事にモテる奴の側に居る事を許されるという事なのだから。だけどユキちゃんは少し思案するように声をあげ、ぺこりと頭を下げた。

「スミマセン」
「あ?」
「マ、マルコ落ち着けって!」
「うるせぇよいサッチ」
「グララララ!随分とハッキリ言うじゃねぇか」

ピキリと青筋を立てるマルコを宥めれば容赦なく蹴りが飛んでくる。八つ当たりすんじゃねぇよ!!

「今私に、家族と呼べる存在は居ません」

はっきりとした物言いに口を噤む。ユキちゃんのオヤジを見つめるその瞳の強さに、マルコが惹かれたものを垣間見た気がして。

「…だけど、私が貴方達を家族と呼ぶには、貴方達が私を家族と認めるには、互いを知らなさすぎる」

だから、私は娘にはなれません。そう瞳を反らさずに言い切ったユキちゃんに自然と口元が緩む。さっきまでムッとした表情をしていたマルコは複雑そうな表情を浮かべていたけど。

「グララララ!!」

突然笑い出したオヤジに、クルー達も顔を見合わせて笑う。

「残念だったなぁマルコ」
「はははっ」
「うるせぇよいサッチ!!」
「でもよぉ、嬉しいじゃねぇか!」

海賊でクルーの事を家族だと言う奴らは殆ど居ない。だから海賊の中には俺達白ヒゲ海賊団のことを家族ごっこと馬鹿にする奴らも少なくない。だけど彼女は馬鹿になんかせずに、俺達と家族になるっつーことを、こんなに真剣に考えてくれてるんだ。

「マルコォ!!」
「なんだよいオヤジ」
「お前ぇのモンだって言うならばコイツの全てを奪ってみせろォ!」
「!」

オヤジの言葉を聞いてマルコをはやし立てるクルー達。それにマルコも自信満々に応えて。
その姿をポカンと眺めていたユキちゃんに、オヤジが少し身を屈めてニヤリと笑った。

「ユキ」
「え?あ、はい」
「俺達は海賊だァ。欲しいもんは奪ってでも手に入れる」
「は、はあ」
「お前はマルコが奪うと決めた。遠からずオメェは俺達の家族になる事にならァ。精々心の準備、しとくんだなァ。グララララ!!」

オヤジが認めたその瞬間、ユキちゃんは俺達の家族になったわけだが、きっと本人は納得してないんだろう。そして、それを承知の上で俺達は彼女を家族として接する。

「「「「うぉぉぉ!」」」」
「あの…」
「よろしくなぁ!」
「え…」
「すっげぇぇ妹だぜ!?」
「ちょ…」
「マルコ隊長ー!頑張って下さいよーー!!」
「…」
「おう、まかせとけぃ」


「………あれぇっ?」

マルコに狙われたのが運の尽き。俺達白ヒゲ海賊団から逃げるなんて事出来ないぜ?
未だ呆然とするユキちゃんの肩に、これからよろしくの意味を込めて手を置けば、それを目ざとく見つけたマルコに再び蹴られるのだった。独占欲強ぇよ!!