先を歩くキミ

簡単な任務だと甘く見ていた。いや、任務自体は簡単だったんだ。ただ、里に帰る途中で何者かに襲撃され、負傷した。家に帰るまでが遠足とはよく言ったもので、此処にきて実感することになるとは思わなかった。
状況を確認しよう。敵は1、2…3といったところだろうか。そして俺自身は…、右肩負傷。クナイに即効性の痺れ薬が塗ってあったらしく、身体がうまく動かない。
狙いは取り返してきた巻物か、金目のものか…。相手の目的が解らなくてはヘタに動けない。さて、どう動く。
刹那、投げられたクナイに起爆符。動かない身体にムチを打ち、爆発から逃れる、が、その先にもう一人の敵。思わず来る衝撃に備える。
―…その時。

「水遁・水龍弾の術!!」


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俺にはアカデミーの廊下ですれ違って以来、ずっと気になっている女がいる。当時、顔しか分からなかった俺は、探険と称して校内を走り回るナルトとキバのお守りとして、彼女を探しに行っていた。その時のチョウジは何も話していない筈なのに、生暖かい目で見てきた。そんな視線に耐えた結果分かったのは、彼女が一つ上の学年だということと、吉田ユキという名前。しかし、他学年との交流する機会などないし、俺には話し掛ける度胸もなかった。結局接触すること無く、彼女は卒業してしまった。
元々やる気のなかった俺は更にやる気をなくして項垂れていた。そんな俺が次に彼女を見たのは、中忍試験の会場だった。筆記試験の時はそれはもう締まりのない顔をしてただろう。なんたって斜め前に彼女がいたんだから。
そして、木の葉崩しやらサスケの里抜けやらが落ち着き、中忍になって数ヶ月、漸く彼女と話すことが出来たのだった。

「えーと、シカマルくんだっけ?」
「!、っす」
「キミも中忍だったんだねー。一緒に任務するときはヨロシク。」

颯爽と歩いていく彼女から目が離せなかった。多分、俺の印象は最悪。(ろくに返事もしていないし。)…しばらくへこんだのは秘密だ。


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さて、なんで今こんなことを思い返しているかというと、別に走馬灯とかそんなんじゃない。彼女の、声が聞こえたから。
音もなく降りてきた彼女は、手裏剣やクナイを使ってあっという間に敵を倒してしまった。一年の差ってこんなでけぇのか。
…これ夢じゃねーよな。俺の願望、みたいな。

「…ん?おー。シカマルくんだ。やほー。」
「ユキさん…」

敵を縄で縛りながら振り向く。うわ、俺今かなりカッコワリィ。気分が落ちる。

「怪我した?大丈夫?」

近付いてきたユキさんに胸が高鳴る。持っていたハンカチを傷口に巻いてくれる。うわ、近い。なんかいい匂…いやいや待て俺!

「、すいません。傷は大したことないんですけど、痺れ薬が塗ってあったみたいで。暫く動けません。」

自嘲気味に話す。だってまじでカッコワリィ。

「ふーん。」

興味無さそうに返事をして隣に座る彼女に再び動悸が激しくなる。ふーんてかわい…落ち着け俺!

「それよか聞いてよー。私さっきまで長期任務行ってたの。」

それで最近姿を見なかったのか。避けられてる訳じゃなくて良かった。

「報告に行ったらその足で次の任務だって言われて、」

人使い荒くね?少しくらい休憩してもいいよねー。なんてヘラヘラと彼女は笑う。
気を使ってくれてんだろうな。あー、まじでカッコワリィ。
それでも、漸く舞い込んできたチャンスだから。

「…ホント助かりました。ありがとうございました。」
「モーマンタイだよー。私も任務だしね。」
「いや、それでも助かったのは事実なんで。」
「大袈裟だねー。」

一年先を歩く貴女の、隣を歩きたいから。

「…、お詫びにこの後、メシ食いに行きませんか?」

先ずは一歩。
貴女に近付いてみる。





術を大規模に撃ちたくなった。