出会えた奇跡

「…お願いします!!」
「あらあら、困ったわねぇ。取り敢えず服が汚れるわ、立ちなさいな。」

昼過ぎ。午後の授業が自習となった為にのんびりと昼飯を食べている最中、食堂の厨房で突然このような会話が繰り広げられていた。私達五年生は顔を見合わせ、各々姿を隠しながら騒ぎの現況を見に行く事にした。勿論、お残しはせずに全て食べてから。

「取り敢えず、名前聞いてもいいかしら?」
「はいっ!吉田ユキです!」
「じゃあ吉田さん、なんで私なんかに弟子入りをしようと思ったのかしら?」
「なんかなんて御謙遜をっ!以前にアナタの料理を食べた事があるんです。アレはとても衝撃的で、私は思わず涙を零しそうになってしまって。」

うっとりとした表情で話始めた女。天井に隠れた私、鉢屋三郎と尾浜勘右衛門は思わず顔を見合わせる。

「『食堂のおばちゃん』と呼ばれるアナタを探すのは大変でした…。様々な村や町、城の食堂を巡っては落胆の繰り返し。…此処で漸く見つけました。お願いします!私を弟子にして下さいっ!!」
「そうは言ってもねぇ…、私の一存では決めれないのよ。」
「存じております。なにせ此処は忍を育てる学園。対立する城も多いのでしょう、間者と疑うのも無理はありません。」

”間者”という単語に目を見張る。やはりこの女、ただの町娘というわけではないようだ。まず、おばちゃんの料理を食べたという場所が不明だ。学園外で作る事なんて殆ど無い筈だ。

『どう思う。』
『うーん、取り敢えずおばちゃんを探して此処まで来るなんて、凄い根性だよね。』
『確かにな。』

矢羽音で話し合うと、女と一瞬目があった。

「天井や外にいる方々も私に興味津々みたいですし、ね?」
『『『『『!!』』』』』

どうやらバレていたらしい。五人ほぼ同時に姿を現す。おばちゃんは驚いているから、気配は消せていた筈だ。

「お前何者だ?ただの町娘では無さそうだ。」
「目的はなんだ。応えによっては容赦しない。」

目つきを鋭く、威圧的に話し掛ける。おばちゃんもただならぬ雰囲気と察したのか、一歩下がって様子を窺っている。
しかし、予想とは違った反応が女から返ってくる。キョトンと目を丸くし、信じられないとばかりに声を張り上げた。

「ええ!?私の事知らない!?」
「はぁ?」
「吉田ユキだよ!私!」
「…有名人、か?」
「知ってる?」
「さあ?」
「知らないのだ。」
「ガーンッッ!!」

がーん、なんて口に出す奴を初めて見た。吉田ユキと堂々と名乗った女は地面にのの字を書いて落ち込んだかと思うと、顔をあげてポンと手を叩いた。

「これでも売れっ子なんだけど…あ。よく考えたら本名名乗った事ないわ。」

思わず全員で転ける。ええー。

「ま、いいや。フリーの忍者やってました!此処で働かせて下さいっ!」

いやいや、よくない。無理矢理過ぎるだろう。結局コイツが何者なのか全く分からないじゃないか。まあ忍というのは間違いないだろうが。

「面白いっっ!」

ボフンッッ

「が、学園長!?」
「あちゃー。」
「吉田さんと言ったかね?此処で働くといい!」
「「「「「あー。」」」」」
「本当ですか?やったー!!よろしくお願いします!」
「ええ。よろしくね。」
「い、いいのかな?」
「学園長がこう言ったらもう決定だな。」
「そういえば何処でおばちゃんの料理を食べたんだ?」
「ん?ドクタケ城。」
「「「「「ド、ドクタケェェエ!?」」」」」
「うんっ!」

ニコニコと笑う女に、やはりコイツはただ者じゃないと口元をひきつらせた。





珍しく現地主。くの一さんですが、フリーで変装を得意としている為、素で任務を行う事は全くありません。利吉さんとも知り合いだけど、変装した姿でしか会ってないので利吉さんは男と思っている。
おばちゃんに弟子入りする話をおバカな子で書きたかったのですが、書き終われば意外と賢そうではないか。