「…分かったよ!認めるよ!俺は……夢野が好きだ。」
私が失恋してから数年経った。あれから私はすぐ逃げるように海外に留学した。
私は歌みたいにほんわかしてて、可愛い女の子ではなかった。しっかりしてて頼りになるのに、護りたくなるような歌。二つ結びの長い髪はいつもキレイに巻かれている。料理や裁縫が苦手で、それでも努力して練習していた彼女は、女の私から見ても魅力的な女の子だった。
「日本…か。」
手帳を眺め、スケジュールを確認する。
元々趣味程度だったピアノ。柊先輩勧めもあって少しずつ勉強はしていた。それなりに有名な音大に入れたはいいものの全然足りなくて。言葉も音楽も必死に勉強して、先生に恵まれて、縁に恵まれて。必死に走ったこの数年。忘れようとすればするほど忘れられなくて。
そんなある日、世界的にすっかり有名になった柊先輩に誘われて、日本でコンサートをすることになったのだ。
そして当日。
「ユキ〜!!久しぶり!綺麗ー!!」
「わっ、皆来てくれたの?」
「あったり前じゃない!ユキに聴かせたいポエムこんなに溜まっちゃったんだからね!!」
ホラ!と言って大量のノートを渡してくる。
「あ、はははー。久しぶりだなー、美紀のポエム。」
「顔ひきつってんで。でもまあ、ホンマに久しぶりやな。」
「うん、、そうだね。」
ホントにそうだ。だって、一度も帰国しなかった。何度もホームシックになった。日本が、家族が恋しくて仕方ない時があった。それでも、それ以上に小暮と顔を合わせるのが辛かった。
「それにしてもアイツおっそいなー。」
「あ、駆?なんか遅れるってメールあったよ?」
「アホやなー。」
ドキリとする。"駆"だなんて。前は苗字だったのに。
前に柊先輩に会ったときに先輩が振られたって言っていた。もしかして歌…。
コンコン
「!はい。」
「吉田くん、行こうか。」
「…はい。今行きます。」
「じゃあ私達席行ってるね?頑張ってね!」
「うん、ありがとう。」
後ろ姿を見送って深呼吸する。
「…吉田くん?」
「いえ、いきましょう。今日は宜しくお願いします。」
「くすっ、こちらこそ。」
−−−−
小暮Side
まさかの寝坊で慌てて会場に入る。こんな大事な日に寝坊とか有り得ねー。けどまぁ、大事な日だからこそ昨日は寝れなかったわけだけど。ステージの上には柊と、数年振りの吉田がいた。
吉田とは中学からの付き合いで、特別仲良いとかそんなんではなかったと思う。ただ隣にいても違和感がなくて、よく夢野と口喧嘩をしたときに宥められ、呆れられていた。
藤崎に言われて認めた夢野への気持ち。その数か月後、何も言わずに吉田はいなくなった。夢野への気持ちはウソではない筈なのに、隣に無くなった温度を無意識に探していた。
そして今日、漸く吉田と会える。なんで急にいなくなったんだ、とか言いたいことが色々あった。
−−−−
無事コンサートも終わり、控え室で一息つく。良いコンサートだった。やっぱり先輩のヴァイオリンは素敵で、皆が音楽に引き込まれる。その音楽に私のピアノを入れてもらえて、凄く凄く幸せな一時だった。
コンコン
誰だろ、コンサート後は気持ちが高ぶっているからあんまり人に会いたくないんだけどな。警備の人に伝わってなかったのかな。
「はー…い、」
「…よう。」
小暮くん…。なんで…。
キュッと手を握り、笑顔を作る。
「小暮くん!来てくれたんだね!」
「ん?あぁ、まぁな。」
「歌が遅れるって言ってた。どうせ寝坊でしょ?」
「う、うっせ!!しょーがねーだろ、昨日寝れなかったんだから。」
「!、なーにソレ。遠足じゃないんだから。そんなに私に会えなくて寂しかったワケ?」
クスクスと笑う。笑えてる。
「……そうだよ。」
「え?」
「…〜だから、そうだって言ってんの!!」
何言ってんのコイツ。
「ずっと隣にいたやつが突然いなくなって、寂しくないわけがないだろ!」
それは…まあ、そうかな。
「連絡先もわかんなくて、」
落ち着くまで家族以外知らなかった。
「柊に聞くまで、殆ど何も分からなかった。」
先輩、しゃべったんですか。
「街を歩いてても無意識にお前を探して、」
何を、
「よーやく会えたんだから」
「嬉しくないワケ、ないだろ?」
ズルい
「ズルい、よ。」
そんなこと言われたら
「諦めきれないじゃない…!」
歌がいるのに。海外にまで逃げ出したのに。
「………じゃあ」
顔をあげる。そこには、微笑む小暮くんがいて。
「諦めるなよ。」
涙が溢れてくる。
「隣にいろよ。」
「…………ユキ。」
"駆"くんは私の涙が流れる頬を撫でて、そっと口づけた。
−−−−−−−−−−
(…歌は?)
(、元カノ.だってアイツ元々イケメンの柊が好きだったんだぜ?すぐ別れた)
(…やっぱ付き合ってたんだ)
(もともと吊り橋効果だったんだ.長引くワケなかった)
(う〜…)
(妬いてんのか?カーワイ)
((ヘタルのクセに!!))
『おねがいマイメロディ』の駆!可愛すぎて書いたけど、可愛さは出なかった…。