合格祝い

「合格おめでとう。」
「和谷くん!」

進藤くんや和谷くんがプロ棋士になって2年が経った。私も漸く彼等と同じ道を歩き始めることとなった。
去年は伊角さんが全勝、門脇さんも伊角さんに一敗しただけで、あと一人は大接戦の末本田さんに決まった。今年は私と小宮くん、あと一人は外部の人だ。

「わ、わ、どうして此処に!?」
「スーツ似合ってんぜ?」
「え?あ、りがとう?」

今日は新入段の免状授与式。説明も終わって小宮くんと話しながら外に出て来たところだ。

「小宮ぁ。」
「はいはい、わーってるよ。じゃあまたな吉田。」
「あ、うん!またねっ!」

さっさと行ってしまった小宮くんを見詰める。あわわ、和谷くんと二人きりだ。どうしよう。
去年は和谷くんはプロになってばかりでやっぱり大変で、私は私で大学受験を並行していた。それもあってか去年は落ちてしまったわけだけど。
私と和谷くんは元院生仲間。と言っても、進藤くんの少し前に一組に上がった私は話した回数もごく僅かだった。彼は院生になったばかりの時も、一組に上がったばかりの時も優しく声を掛けてくれた。お陰で奈瀬ちゃんと仲良くなれたわけで。感謝しているし、もっと仲良くなりたいって思ってた。てかぶっちゃけ、す…好き、だし。
ここ2年殆ど会えなかったから緊張する。背伸びたな。格好良いな。

「う、あ…」
「ハハッ、なんだよその反応。」
「えっと、久しぶりだから…なんか緊張しちゃって。」
「相変わらず人見知りなんだな。」

それは和谷くんだからだよ!

「プロ試験最終日に棋院に行ったんだぜ?」
「え?」
「小宮にはその時会ってさ。」
「へ、へー。」
「お前に会えなかったから、今日こうして会いに来たってわけ。」
「私にっ!?」
「そ。合格祝いになんか奢ってやるよ。ケーキでいいか?」
「え?あ、うん?」
「じゃ、行くか。」

然り気無く手を引かれる。うわわ、手が!手が!
ケーキ屋に着くと店内は満席で、待ってる人もたくさんいた。

「す、すごいね。」
「だな。持ち帰りにして、俺ん家行かねー?」
「あ、うん……え!?」
「すいませーん、持ち帰りで。」

ずっと手は握られたままで、和谷くんの突然の提案にもろくな返事も出来ずにアワアワしていた。

−−−−

あれから和谷くんの家に行って二人でケーキを食べている。折角買って貰ったケーキだけど正直言って味なんかよく分からない。なんでこうなった?てかよく食べるね2個目だよそれ。

「くっくっ、お前…緊張しすぎ!」
「うえ?ご、ごめん。」

情けなさすぎる。うん、よし。もう大丈夫!と顔をあげると、机を挟んで目の前にいたハズの和谷くんがいつの間にか隣に来ていた。

「口、ついてる。」
「う、あ、どこ?」
「ここ。」

ちゅ、と口の端に軽く触れるだけのキス。
呆然としながらそっと手を添えると、確かに指にクリームがついた。いや、ついたけどさ…!

「はっ、…かわい」

もう一度近付いてきた彼に、思わず目を閉じる。そっと触れては離れる。何度も繰り返される行いに頭がぼんやりして、息が荒くなる。ただ嬉しくて、切なくて、涙が目尻に溜まる。

「ん、…はっ」
「…はーっ。」
「え?」
「…長かった。」
「?」
「好き。」
「!」
「…吉田は?」
「わ、たしも…」
「知ってる。」
「え!?」
「でも…良かった。」
「…うん。」

和谷くんはもう一度キスをくれて、強く強く抱き締めてくれた。


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ユキちゃんが院生試験を受けに来たときに一目惚れ。それから押せ押せなのに気づいてもらえなかった和谷。院生仲間内では公認。