香りに誘われて

※男主注意



「入門表にサインなー。」

彼は暗闇の中怠そうに立っていて、欠伸をしながらそう言った。

「ユウキさん!ただいま!!」
「ユウキさんお疲れ様です。ただいま戻りました。」
「ユウキさん、ただいま帰りました。今夜も素敵ですね。」
「あーはいはい。おかえりー。」

珍しいメンバーだねぇ。なんて煙管をふかしながらコッチを見てくる。確かにそうなのだ。今この場にいるメンバーは小平太、俺(留三郎)、仙蔵だ。同室ということもあってよく一緒にいるメンバーが見事に二分されたスリーマンセル。相性が悪い訳ではないが、普段よりも馴染みの無いメンバーと馴れない三人での任務。馴れないことだらけで皆珍しく泥だらけだ。

「他の奴らは?」
「他の男なんて気にしないで私を見て下さい。」
「距離を考えると四半刻くらいはかかると思いますよ。」
「んー了解。ほれ、先に風呂行って来い。」
「よーし留三郎競争だ!いけいけどんどーん!!」
「ばかやろ!今は夜中だぞ!もっと静かにしろ!」
「ユウキさん漸く二人きりに…」
「ならねーよ。サッサとその汚ねぇ身体洗って来いや。」
「相変わらずつれないですね。フッ、そんな所も素敵なんですけど。」
「はいはい、終わったら食堂な。」
「…っ、はいっ!」

あ、因みにこの変な仙蔵はユウキさんの前では標準装備だ。サラッと口説いておいて最終的に優しくされて、真っ赤になって帰ってくる。普段ドSでプライドの高い仙蔵だが、ユウキさんの前では年相応になるのだ。

三人で風呂に入ってから暫くすると伊作たちも入ってきて、全員で支度を整えてから食堂に向かう。あー腹減った。今日の飯はなんだろうな。

ユウキさんは夜勤で働いている敏腕忍者の事務員兼食堂のお兄さんだ。事務員と言っても書類仕事をするわけではなく、基本は見張りらしいが。あとは任務に向かった生徒がキチンと全員帰ってきたかを確認したりしている。必要があれば助けに向かうそうだ。
忍の活動時間は基本皆が寝静まった深夜。四年生になると任務を任されるようになる。初めは簡単な物から。学年、実力が上がるにつれてより実践に近いものになり、頻度も上がる。そのため、彼を知っている生徒は上級生に限られているのだ。
早朝からは夕飯までは食堂のおばちゃんが食堂に居るが、深夜はユウキさんが作ってくれる。彼の料理も絶品。食堂から漂ってくるいい匂いに自然とお腹が鳴った。

「いい匂いだなぁ!」
「…もそもそ…」
「だな。伊作、持ってってやるから座ってろ。」
「大丈夫だよ。留さん心配しすぎだよ。」
「ユウキさんありがとうございます。割烹着姿よく似合ってますよ。」
「仙蔵さっさと行け。飯が冷めんだろうが。」
「ちっ、文次郎に言われたのは癪だがその通りだな。さ、ユウキさんも座って下さい。」

ユウキさんが自分の湯飲みを持って俺達の近くに座ると、俺達は各々いただきますを言って食べ始める。

「うめーっ!」
「コレ、なんていう料理なんですか?」

深いドンブリに入った黄色い麺に透き通ったツユ。その上に乗っているのは刻んだネギ、卵、タケノコ…?、白に桃色のグルグル。

「これ?ラーメンだよ。これは醤油ラーメン。」
「らーめん?うどんとはまた違って美味しいですね。」
「だろ?他にも色んな味があるんだぜ。」

ユウキさんの作る料理は南蛮のものと思われる物が多い。ユウキさん曰わく故郷の味、だそうだ。その話をするとき、彼は今みたいに懐かしむような、少し寂しそうな、けれど嬉しそうな顔をする。

「夜食といえばラーメンか煮込みうどんだろ。」
「そうなんですか?」
「いや、家がそうだっただけ。試験の前日とか受験の時とかな。お陰で太った太った。」
「ユウキさんがどんな体型でも私は気にしませんよ!」
「ユウキさんは細過ぎると思いますけど。」
「そうか?そうでもないだろ。んなことより早く食っちまえ。夜が明けちまうぞ。」

そう言って俺達から視線を外し、煙管をふかし始めたユウキさん。俺達も急いでラーメンを啜るが、ふとユウキさんを見て口から疑問が零れた。

「…ユウキさんて凄腕忍者なんですよね。」
「な!留三郎!貴様はユウキさんを疑っているのか!」
「そうじゃねーよ!面倒くせぇなお前っ!!だからよぉー、煙管だよ。」
「あー。”ニオイ”ってこと?」
「ああ。忍がニオイを纏うのって御法度な気がするんだが。」
「確かにな。ヘムヘムのように番犬がいたりする所もあるし、凄腕忍者ともなれば鼻が利く者も少なくないだろう。」
「…もそもそ…」
「ははっ。まあ確かにそれが忍の基本だよな。つーか、それが正解だぜ。」
「えっ!じゃ、じゃあ何故ユウキさんは煙管を吸ってるんですか?」
「俺が既に雇われてて、任務が此処を護ることだから出来ることではあるがな。このニオイがするところに俺が居るって思わせる事が出来るんだよ。」
「!つまり、此処に忍び込む奴らを欺く事が出来るんですね。」
「そ。それにこのニオイに紛らわせて臭いのある毒薬を仕込む事も出来るしな。」
「なるほど。無臭の薬はなかなか無いですからね。」
「そ。だから香の焚いてある部屋は気を付けろよ。どんな毒薬が待ちかまえてるか分かんねーからな。」



「…というユウキさんの武勇伝を鉢屋に話してやったのだ。」
「良い迷惑だなオイ。いや、鉢屋も似たようなもんか。」

小平太が壊した柵を直している時だ。突然現れた仙蔵は一方的にメチャクチャ前置きの長い話をし始めた。作兵衛や仙蔵の苦手とするしんべヱ、喜三太もこの場には居ないのをいいことに、話が終わる兆しが見えない。

「そしたら鉢屋め。この間潜入して城にこの仕掛けがしてあった、罠に気付けたのはユウキさんのお陰だ!とか言ってユウキさんと仲良く団子なんぞ食っておったのだ。それをまたアイツは勝ち誇った顔で自慢を…」
「あー、分かった分かった。」

なんで俺に話してんだ。同室のアイツ(文次郎)に言え!…って前に言った事があるが、文次郎には既に話した後だった。つまりコイツは文次郎だけでは話し足りず、俺にまで手を伸ばしてきたということだ。いい迷惑だ。

「それ、ユウキさんへのお土産だろ?今街で話題の甘味処だってしんべヱが言ってたぜ。」
「ふむ、流石はしんべヱだな。」
「そろそろユウキさんも起きてるんじゃねえか?早く行ってこいよ。」
「そ、そうだな!先におばちゃんにお茶を貰って来なければ。じゃあな。」
「あぁ。」

はぁー。ユウキさんも厄介な奴らに好かれたもんだ。まあ、仙蔵や鉢屋ほどではないし、種類も違うものの、俺だって彼を尊敬しているし信頼している。あいつ等の前では言えねーけどな。(言ったら殺られる)

兎にも角にも、俺達忍術学園の上級生は皆ユウキさんが大好きってことだ。




やっぱりトリップ主。彼は夜勤の職員で、学園の護衛やら食堂のお兄さんやらをやっている。夜勤なので低学年は会わない。
六年allの予定が留さんと仙蔵が出張った。というか他は空気。そしてまさかの鉢屋参戦。