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「ふあぁぁぁっ。」

朝の5時。近所のコンビニで飲み物とオニギリを選びながら大欠伸。むにゃむにゃ。

「くくっ、すげぇ欠伸。」
「!福田さん…」

レジカウンターの奥から私服で出てきた彼は、声を潜めながら笑った。彼はこのコンビニのアルバイトのお兄さんだ。深夜にバイトしていることが多く、夜に気分転換に来るとよくいる。毎晩のように来ていた時に声を掛けられたのがキッカケで、見掛ける度に一言二言話すようになった。今日はもうあがりなのかな?

「いやぁ、一睡もしてないんですよー。」

実は私、大学通いつつ少年週刊誌で漫画の連載してます。この事は親と友達の2、3人、あとはアシスタントの人達と編集部の人達しか知らない。だから当然、たまに…よく行くコンビニのお兄さんである福田さんが知ってる筈もなく。

「吉田さんって大学生でしたよね。」
「んー、はい。」
「夜遅くまで呑んでたんすか?」
「はは。まぁそんなとこです。」

原稿を描いてたら先の展開で取り入れたいシーンがふっと思い付いて。その辺りをメモしていたら話がドンドン広がって。時間も忘れて気付いたらこんな時間だった。

「そういえば今週の『魔導士のタマゴ』読みました?」
「え?あ…うん。」
「あれ?吉田さん好きなんじゃないんすか?」

前に雑誌の表紙ガン見してたでしょ?と不思議そうな顔をして首を傾げる福田さん。み、見られてたんですか。恥ずかしっっ!!自分の描いたイラストが表紙の時にガン見していたんだよね。時間にしては数秒の事だったのに見られていたとは。
『魔導士のタマゴ』とは私が連載している漫画だ。最近アニメ化もして毎週欠かさずに見ているし、自分で描いておいてなんだけどキャラが皆大好きだ。それが動いて話すなんてなんて素敵なんだろう。

「あ、はい。好きです。」
「ははっ、良かった。俺の勘違いかと思っちゃいました。俺も好きなんすよね。」

読み始めたのはアニメがキッカケなんですけど、と語り出す福田さん。ありがとございまーす。彼は元々ジャック派らしい。他の雑誌は立ち読み程度だとか。

「すげえイケメンなのに天然でマジボケするヤマトさんが好きなんす。」
「そうなんですか。私はユキナリくんが好きです。外見に似合わず一途だし、チームのムードメーカーで。」

ユキナリくんは描きやすいキャラNo.1だ。勝手に動いてくれる子だし、人気も高いのでしょっちゅう出てくる。派手な銀髪と耳に沢山のピアスの目つきの悪いイケメンくん。この間のキャラ投票では上位にいるらしい。
因みにヤマトさんは主人公の先輩。格好良いしモテるのに本気でボケたがる残念なイケメンだ。

「あー、そういえばユキナリってサブキャラのわりによく出てきますよね。作者の好み丸出しって感じに。」

サーセン。

「えー、でも格好良くないですか?」
「そーかー?」
「はい!チャラく見えるのに実は一途だし、ふとした時に見せる優しさにキュンとします。」
「ふーん…」

そういうもんかねぇ?なんて首を傾げる。いやー、常々思っていたけど福田さんて…

「似てますよね。」
「何が?」
「福田さんと、ユキナリくん。」

うん、似てる。

「それは俺が目つき悪いチャラ男だっていいたいんすか。」
「あ、いや、その、そういうことじゃなくてですね。」
「へー、ふーん。」
「あ、ほら!人気投票ではヒロイン押しのけて第三位だっていう話ですし、今度発売される増刊号にはユキナリくん主人公の番外編をやるつもりですし!」

私があまりの剣幕だったのかポカンとする福田さん。そして次の瞬間爆笑し始めた。

「ふ、福田さん?」
「ぶ、くくくくっ。吉田さん、焦りすぎ…っ!」
「へ?」
「焦りすぎて、いろいろ暴露してるし…!」
「あ…あ!」

し、しまった!私今何ていった!?

「あー笑った。吉田さん今から暇?」
「へ?あ、うん。」

大学は午後からだし。

「少し早いけど、ファミレスにでも飯食いに行きません?」
「あ、はあ。」
「前から気になってたんすよね。たまに袖にトーン付けてる時あるし。」
「げっ!」

恥ずかし!教えてよ!!

「まだ発表されてないキャラ投票の結果や増刊号の内容まで知ってるし。」
「(ハラハラ)」
「話も合うし可愛いし。」
「(ハラハラ…ん?)」
「俺似のユキナリが大好きみたいだし?」
「…は?」

は…

「はあぁぁぁぁぁ!?」
「そうそうその調子でこいよ。敬語なんて止めてさ。」
「え!?いや、そういうことじゃなくてですね!」
「ぶくくくっ、顔真っ赤。」
「なっ!!!」

いやだってユキナリくんは私の理想のタイプど真ん中で、そのユキナリくんに似ている福田さんは文句なく格好良くて。
言葉にならなくて口をパクパクさせる。顔が真っ赤なのも自覚している。しているが、どうすることも出来ない。だって、ニヤリと意地悪く笑う福田さんに今まさにキュンとしているんだもの。

「〜…ずるい!」

ポンポンと顔を伏せる私の頭を撫でてくる福田さん。チラリと顔を窺うとそれはもう優しい顔で微笑んでいて。そのまま福田さんに連れられて駐車場にあるバイクの前まで来た。

「後ろ乗れよ。」
「むー…」
「言っとくけどなー」

福田さんがあー、とか唸りながらそっぽを向きながら頭を掻いて言った。

「バイクの後ろに乗せる女は、お前が初めてなんだからな。」
「え…」

顔はムスッとしているのに耳だけは真っ赤で。ゆっくりとバイクの後ろに跨がって、控えめにそっと抱き付いた。






福田さん好きです。面倒見の良い子とかムードメーカーが好き。一応アニメの方の雑誌名にしてみた。あ、勿論『魔導士のタマゴ』は架空です。良い名前が思い付かなかった。取り敢えずファンタジー物。そのわりにキャラの名前が和風(笑)
原作を中途半端なところまでしか読んでないので微妙だけど、イケメンなのに女の影が無いところが素敵。
実は最初のうちのシュージンも好きだけど結婚しちゃうからなー。