幼なじみの君は

「俺に勝てるのは俺だけだ」



ピロリーン

青峰くん…、と少し感傷的になっていたその時体育館に鳴り響いた場違いな音。携帯のシャッター音みたいだったけど…。視線をキョロキョロさせ、舞台袖の方を見た。

「…」
「…」
「『俺に勝てるのは俺だけだ』…『俺に勝てるのは俺だけだ』…『俺に』」
「止めろォォォオオ!!!」

ガコーンッッ!!!

立ち上がった青峰くんが舞台袖に消えていき、次の瞬間大きな音と共に携帯電話が舞台まで転がってきた。どうやら其処に誰かがいたらしい。

「あーあーあー、何するの青峰くん。」
「テメェこそ何してんだ。」
「何?私はアレだよ。新しく代えたスマホの操作方法を調べていたのさ。まだ使い方に慣れていなくてね。」
「ほー?で?今は何の操作方法が分かったんだ?」
「今はねぇ、ボイスレコーダーだよ。ほら、此処で声を変えることも出来るアプリなんだ。」

ゆっくりと舞台袖から出てきたのは青峰くんと同じクラスの吉田ユキさんだった。彼女はヒョイと携帯をスマホを拾って画面を青峰くんに見せながら操作する。
それを顔に青筋を立て、口元をひきつらせながら見ている青峰くん。怒鳴る三秒前状態だ。

それにしてもこの二人の関係性が見えない。吉田さんは先月転校してきた子で、基本無表情なのが特徴。幼なじみの子がクラスに居るらしく常にその子が隣にいるが、吉田さんは寝てたり上の空だったりと自由。なぜ彼女にそんなに懐いているのか気になってはいたけれど、運動神経も頭脳もそれ程の物ではなかったため追究する事もなかった。
それがどうたろうか。そんな彼女が、青峰くんと仲良さげに話しているではないか。女子とは滅多に話さない青峰くんと。

「ほー、なるほどなぁ。貸してみろよ。」
「イヤだよ私はもう騙されないよ。前にそう言われて貸したら屋上で撮った写真削除したじゃないか。」

何してんの青峰くん!そりゃあ吉田さんも嫌がるよ!そんな勝手にデータ消すなんて酷…

「そりゃ消すだろうが。俺が逆立ち失敗したところなんか。」

正当防衛だった!というか青峰くん屋上で何やってんの!?

「青峰くんだって私の寝顔撮ったじゃないか。」
「あれは良いんだよ。」
「良くないよ。非常に不本意だよ。」
「可愛く撮れてんだから良いじゃねーか、ほら。」
「うーわー、待ち受けなんて止めてよ。」
「いいじゃねぇか。お前の待ち受けも変えてやるよ。」
「いーのー。私のはコレで。」
「ちっ。」

「…あのー。」
「ん?」
「あー?」

二人同時に振り向き、吉田さんはコテンと首を傾げた。あー、桃井さんだ。コンニチハー。なんてのほほんと挨拶をしてくれる。か、可愛いな。癒し系…いやいや今はそれどころじゃない。

「二人は付き合ってるの?」
「そうだけど?」
「うん。」

サラッと隠すことなく告げられた真実。あまりの出来事に頭が着いていかず、ポカンとする。

「ぇ…ぇぇぇえええ!?」

「んだよ、うっせぇなさつき。」
「えええ、だ、だって!」
「桃井さん可愛いねー。」
「あー?オメェの方が可愛いぜ。」
「な、なななな」
「ななな?」

無表情だけど大きな目を真ん丸にして不思議そうに反復する吉田さんは文句なく可愛い。庇護欲を駆り立てられる。

「んなことより何で此処に居んだよ?」
「あ、うん。一緒に帰ろうと思って待ってたら寝ちゃって、さっき起きたんだよ。」
「じゃあ帰るか。さつき、じゃーな。」
「バイバイ。」
「あ、うん。バイバ、イ…。」

青峰くんが吉田さんの腰に自然に手を添えたのを見て一瞬声が詰まったが、なんとか立て直して手を振り返した。
吉田さんを見る横顔が優しげで。そんな顔をさせる吉田さんに興味が出てきて、詳しく調べてみようと決意した。