延長戦の行方


街でバイクを走らせている時に偶然見掛けた光景に衝撃を受けて、中学の時のクラスメートである吉田ユキの家に転がりこんだ昼過ぎ。彼女は可愛らしいマグカップを2つ持ってローテーブルに突っ伏した状態の俺を見ながら言った。

「え、筒井君?」
「…そ。」
「え?で何。筒井君が彼女らしき可愛い子と仲良く歩いてるのを見かけて、落ち込んでウチに来たわけ?」
「…」
「ばっかねー。声掛けてこれば良かったじゃない!」
「んなこと出来っかよ。」
「なんで。」
「おまっ、向こうは女連れだぞ!?なんか…その、負けてるみたいで悔しいじゃねーか!!」
「まあ、事実負けてる訳だしね。」

こ、こいつ…!!人の気も知らねえで言いたい放題言いやがって…!!そもそも俺が独り身なのはお前のせいだろうが!

「本を片手に歩いてる男になんで女が出来んだよ!」
「まあ筒井君優しいしね。」
「俺よりも成績悪いくせによぉ。」
「はいはい。」

コイツを初めて意識し始めたのが中2だから、片思い歴…何年だ?結構長い。俺がこんなに(家まで押し掛けて)アタックしてんのに一向に靡かないコイツを見ていると、切ないを通り越してやるせなくなってくる。
けど好き、なんだよなー…。中学の頃、あまりに俺が纏わりついていたから、俺のお守りみたいに先公らに扱われてた。それもあって姉の気分なのかもしんねえけど。

「筒井君かー、私も会いたかったな。」
「…なんで。」
「えー?だって中学の卒業式以来会ってないもん。それに、卒業式の時不穏なセリフ残して行っちゃったんだよね。」
「はあ?」
「『加賀を宜しく』だよ?もう意味分かんないんだけど。あれは予言だったとしか思えないよね。」

つ、筒井の奴余計なこと言いやがって…!今度会ったら絶対ェ殴る。ユキは俺とは違う高校に行ったので、中学の頃みたいに頻繁には会えなくなった。更に言えば、俺がこうして家や学校に押し掛けなければ全く会う機会はない。

「加賀もさ、いい加減彼女作りなよ。」
「…」
「この前学校まで来たじゃない?友達以外にも何人かの男子に呼び出されて大変だったんだからね。」
「(ピクッ)男子ぃ?」
「そー。彼氏?付き合ってるの?ってしつこかったんだから。」

アンタには関係ないでしょ、とか思ったけど笑って否定したそうだ。つーか、

「…そんなに嫌なのかよ。」
「なにが?」
「俺が…彼氏と思われるの。」
「え、だってそういう関係じゃないじゃん。ヘタに肯定しても面倒臭い事になるしさ。」
「じゃあ…」
「え、なに…んっ」

テーブルに身体を乗り出してユキの唇を奪う。想像以上に柔らかいソレから音をたてて少しだけ離れて言った。

「もう、否定すんじゃねーぞ。」
「…ちゃんと言ってくんなきゃ分かんないよ。」
「チッ」

赤くなってるであろう顔を隠すようにユキの頭を引き寄せてそっと耳元で呟くと、彼女は恥ずかしそうに笑って背中に手を回してきた。
あーくそ、一生勝てねえな。






悪だけど頭いいとかどんだけツボをおさえてくるんだろうこの男は。面倒見も良いよね。
コミックにもある一場面の続き。