君の本気

※『気付いてしまった』と同主設定


部活が始まる直前。コート整備をせっせとやっている奴らを横目に数人で集まる。メンバーは栄口(俺)、田島、泉、三橋、そして吉田だ。吉田の目の前に出したのは5×5のマス目にランダムに数字が書かれたパネル。そのパネルを俺が持ち、説明をする。

「取り敢えず番号を順に指さしていけばいいんだね?」
「そーそー!まずは俺がやってみるぞ!」

俺の合図で次々と指を指していく田島。時間にして8秒程。相変わらず早いな。
このパネルは周辺視野と瞬間視をみがくための物だ。因みに俺が初めてやったときは19.0秒だった。

「(よし、田島くんよりもゆっくりと…)うん、分かった。」
「お、なんだ。吉田がやんの?」
「阿部くん、梓ちゃん。」
「ぶはっ、梓ちゃん!?」
「うっせーよ!お前もその呼び方止めろ!!」
「じゃーやるぞー。よーい…」
「無視か…」
「スタート!」
「1、2、3、4、5、6、7……23、24、25!」

「「「「…」」」」
「す、すごい…!」
「うおー!やるな吉田!」

「時間は…?」
「10秒6…」
「ちゃんと順番に指してたか?」
「いや分かんねえ…」
「ちゃんと指してたよ!な、吉田!」
「え?うん。(あれ、コレでも早いんだっけ?やっべ。)あ、千代ちゃん来た。千代ちゃーん!」

パタパタと篠岡の方に走っていく吉田の後ろ姿を微妙な心境で見つめる。そういえば、と花井がポンと手を叩いた。

「あいつ、速読出来るんだったな。」
「え、そうなの?」
「あぁ。阿部が用意してたルールブックをパラパラーって読んで覚えたって。」
「え、あの分厚い本を!?あんなの読めるヤツいんの!?」
「つーかあいつ…本気でやらなかったな。」
「「「…はぁ!?」」」

阿部が溜め息を吐いて言った。どういう事だ?

「ほ、本気じゃないって、どうして…」
「あ?あー、なんつーか、吉田って基本的に全力出すことって無いみたいなんだよな。力をセーブしてるっていうかさ。」
「へえ…」
「なんで?」
「さあ?分かんねえけど。」

隣でプルプルと震えていた田島が勢いよく立ち上がり、吉田に向かって叫んだ。突然のことに驚く。

「吉田ー!明日も勝負だ!ゲンミツに!」

すると吉田は振り返ってニコリと笑って言った。

「やだ!」

事情を知らない篠岡さえも思わず苦笑いしてしまうほどに清々しく断った吉田に、俺達も苦笑い。えー!と抗議し始めた田島を横目に各々アップを始める。
クラスが違って殆ど話した事がなかったけれど、もう少し色んな事を話してみたいと思った。





栄口くんらしさは全くない。取り敢えず皆と絡ませたかった。全員居ないのは私の趣味から選抜されたから。
初めてやったときのタイムは二位の花井くんで18.2秒。田島くんは断トツ一位です。