目覚めて見るもの

※『君に決めた』と同主設定



「あれ、ユキだ。」

第三音楽室に一足先に行くと、奥のソファで寝ているユキを見つけた。

「(なんでこんなところで寝てるんだろ?)ユキ、風邪引くよ?」
「すー…」
「全然起きないな…」
「おや、馨来ていたのか。」
「鏡夜先輩。」
「あぁ、ユキな。今寝たところなんだ。暫く寝かせといてやってくれ。」
「ふーん。」

厚手の毛布をかける鏡夜先輩を見ながら首を傾げる。やはり、鏡夜先輩とユキに接点が見えない。普段から鏡夜先輩は周りに当たり障りなく接しているけれど、やっぱり何処か一線を引いているところがある。けれどユキの事は呼び捨てだし、遠慮がないように思う。

「光はどうした?」
「あ、ハルヒが図書室に行くからついて行くって。」
「珍しいな、お前等が別行動なんて。」
「まぁね。」

確かに光も驚いていた。けれど本当になんとなくで。ここ最近教室に現れなかったユキに、早めに来れば会えるような気がしていたから。
近場の椅子に座り膝を立てる。ぼんやりとユキの寝顔を見つめながら鏡夜先輩に前から疑問に思っていた事を聞いてみた。

「鏡夜先輩とユキはさ、初めて会ったのはいつなの?」
「なんだ急に。」
「前から気になってたんだよね。」
「ふむ。そうだな…、元々存在は知っていた。姉が昔からユキの作るもののファンでな。それでも初めて顔合わせをしたのは入学式の時だ。ホスト部創設当初から考えてはいたが、正式に勧誘したのは以前の差し入れを貰った時だ。」
「ユキって高等部から桜蘭に入ったんだよね?」
「あぁ、それまでは海外留学をしていたんだ。ある程度…といっても相当な物だが、技術が身に付いたから今しか出来ない事を、という親のお節介で高等部に通う事を決めたそうだ。」
「ふーん、その割に授業とか居ないけど。」
「この学園は才有る者に惜しみなく機会を提供するからな。まぁ、コイツは授業に出なくても試験はそれなりに出来るだろうがな。」

まるでユキの事ならなんでも知っているような口振りに、なんとなく面白くなくて席を立つ。確かに僕よりも鏡夜先輩のほうが付き合いも長くて、僕よりも知っているんだろうけど、それでも。

「まぁそう拗ねるな。」
「…拗ねてなんかないし。」
「ん、んー…」
「!」

もぞもぞと寝返りを打ったユキに思わず口をつぐむ。うるさかったかな。

「む…、ん…?」

今はまだ、鏡夜先輩よりも知らないことが多いけど。
ぼんやりと目を開けたユキを覗き込んで優しく頭を撫でる。

「…おはよう」

へにゃりと笑った彼女に一瞬だけ手が止まり、心拍数が上がったのを感じながら僕もにこりと笑った。

「おはよ。」

少しじゃなくて、もっと、君のことが知りたくなったんだ。



鏡夜寄りにするつもりだったんですけど、いつの間にか馨寄りに。視点の問題ですね。またリベンジします。