君の力に

※擦鳴注意


「おいシカ。」
「んだよナルト…。」
「決めた。」

ニヤリと笑ったその企むような顔は、以前俺の暗部入りが決定した時と同じで、思わず目を背けたくなる。

「ユキを暗部に入れるぞ。」
「はあ?ユキって…あのユキか?」

ユキとはいつも眠そうに欠伸をしてて、気が付くと顔を伏せて眠っている。授業で先生にあてられるとぼんやりとしながらも即答して正解。だけど成績はクラスの中の中という同級生だ。俺が言うのもなんだが、兎に角やる気がない。

「なんでまたアイツなんだ?」
「だってユキ、実力隠してるだろ?」
「は?あー、まぁそう見えなくもないが…」

やる気が無えだけだろ?

「まぁ何言っても無駄なんだろ?」
「まぁな。明日ユキをとっつかまえて、そのままじじいに報告だ。」
「はぁ。」

心の中でユキに手をあわせた。



────

「じじい!」
「なんじゃナルト騒々しい!もっと静かに来れんのか!」
「んなこたぁどうでもいいんだよ!今日は報告があって来た。」
「報告?なんじゃ一体。」

ふー、と湯飲みの茶に息を吹きかけて、ずずっと茶を啜った。

「暗部に一人、入れることにした。」
「ほぉ、暗部に?して誰を。」
「コイツ。同級生のユキだ。」
「ブーーーーーーッッッ!!!」

啜っていた茶をユキに向かって勢いよく吹き出した火影さま。それを素早く避けるユキとナルト。

「んだよじじい汚ぇな!!」
「な、なななな」
「あ?何言ってんだよ、ついにボケたか?」
「何故よりにもよってユキなんじゃ!!」
「はぁ?」
「火影さま、ユキに何か問題でも?」

ふあーあと欠伸をするユキ。緊張感無ぇな。お前ぇの事で話し合ってんだぞ今。

「問題も何も、前暗部の総隊長の名を言うてみるんじゃ!」
「前暗部総隊長?」

今の暗部総隊長はナルトだが、ナルトが総隊長に就任したのは10歳の時だ。当然、ナルトよりも前に就任していた総隊長がいるのだが、この人は未だ多くの謎に包まれている人物だ。
ナルトが総隊長に就任する際、殆ど面識も無いのに渋る火影さまに口添えをした(押し付けた)のが前暗部総隊長らしい。そのまま総隊長の座をナルトに譲り、副隊長に俺を置いて自分は引退した。というのが一般的に知られている情報だ。
前暗部総隊長は史上最凶の総隊長と言われており、様々な伝説が存在する。仕事が早く(早く帰って寝たいから)、最凶と呼ばれる割に部下からの信頼は厚く、未だに心酔している奴も多いのが現状だ。しかし実際に就任していたのは二年程で、とても短い(当時の部下は号泣したらしい)。

「名前っつっても暗部名だろ?ユキ前総隊長だよな。」
「といっても俺もナルトも殆ど会ったことありませんけど。」
「ば、馬鹿者!此処まで言って何故気が付かぬのじゃ!前総隊長は此処にいるユキじゃ!」
「「はあ?」」

え、いや確かに名前は同じだけど…。ナルトが総隊長に就任したのが10歳の時だから、ユキも同い年としたらその二年前、8歳の時から就任してて。未だにナルトは前総隊長に力及ばずとされていて。…え?

「無い、無いッスよそれは。」
「馬鹿にすんなよじじい。変化してるヤツはチャクラで分かる。ユキのこの姿は変化じゃねぇだろ。」
「当たり前じゃ、ユキは変化などしておらん。ユキは暗部配属後半年で総隊長に成り上がった忍じゃ。弱冠、8歳の子供がな。」
「…じゃあ百歩譲ってユキがユキ前総隊長だとしますが、何故同じ名前なんスか?」
「それはな…」
「それは?」
「いくらその名で呼んでも返事をしないからじゃ。」
「はあ?」
「自分の事だとは全く思っていないらしくてな。本名じゃないと反応せんのじゃ。」
「「……」」

それは…

「馬鹿なのか?」
「直球だなナルト。」
「いやだって、そう思っても仕方ねぇだろうが。」
「馬鹿かと聞かれればそうではないと応える。シカマルに負けず劣らずの頭脳の持ち主だと思っておるよ。」
「!」
「ただ、自分に興味がトコトンなくてのう。話は聞いていても自分のことで無いと前提して聞いておる。」

暗部に幼い頃から入るなんて、九尾が封印されてるナルトや頭に化け物を飼うような俺みたいな特殊な人間に限られる筈だ。ということは、普段なんの悩みもなさそうなユキも何か事情があるのだろう。大人を信じることが出来ずに育った俺達は、唯一理解しあえる存在としてお互いを支えてきた。勿論、火影さまにも世話になったが、やはりナルトの存在は大きかった。ユキにも、そんな存在は居るのだろうか。

「…」
「ナルト?」
「ユキ!」
「………………………ん?呼んだ?」
「お前は俺の側から離れるな。暗部総隊長の名の下にユキの暗部配属を申し付ける!」

それはまるで告白のようで。ナルトが自分から誰かを懐に入れようとする事なんてなかったから、俺も火影さまも子供の巣立ちを見守る心境だ。暫くの沈黙のあとのんびりと了承したユキにホッと息を吐いたのは俺だけでは無いはず。
元暗部総隊長が部下なんて考えただけでも恐ろしいが暫くはナルトの我が儘に付き合ってやるのも有りかな、なんて手を取り合っている二人を見て思った。




特にユキに過去がある設定では無いのですが、取り敢えずぼんやりしている子。ナルトより強い。
擦ナル好きです。だってばよも他サイト様の擦ナルを読んでから微笑ましくなりました。