あたたかな眼差し

※『君の力に』と同主設定。擦ナル注意!




ある日の街中。
母ちゃんに叩き起こされて渋々来た買い出し。ユキの姿を見たのは偶然だった。

ナルトに無理矢理暗部に再入隊をさせられて数週間。流石は伝説の暗部総隊長と呼ばれていただけあって、ユキの強さは圧倒的だった。チャクラの総量も、効率的な忍術の使い方も、純粋な体術も、頭の回転の早さも。
そして何よりも驚かされたのは人望だった。…いや、あれを人望と呼んでいいのかは疑問を持つところだが。

そんなユキに対する部下達の一面を垣間見た1日。

「あー、めんどくせぇ。」

買い物袋をぶら下げて空を見上げながらゆっくりと街中を歩く。珍しく下忍の仕事も暗部の仕事も無い午前、ふと見知った気配に視線を移した。

「(ユキ…)」

ぽやんとしながら八百屋で幾つか野菜を指差し、オマケだと笑う兄さんにペコンと頭を下げて俺とは反対方向に歩き始めた。
暫く見ていると、野菜が大量に詰められた袋からコロンとジャガイモが転げ落ちた。それを気に止めず空を見上げながらのんびりと歩き続けるユキ。
めんどくせーと思いながらも歩みを少し速めると、不意に押し殺した気配を察知する。正体を確かめるように歩みを少しだけ緩めて考える。確か暗部の奴だった。名前は忘れたが、そういえばさっきの八百屋の兄さんと気配が似ている。つーか八百屋かよ。兄さんは殺気も何もなく俺の横を駆け抜けた。
そして俺がジャガイモに辿り着く前にその人物がジャガイモを広い、次々と転げ落ちる野菜を拾い上げながら実に忍らしくユキの跡を付いていく。
周りを伺うと、見知った気配をいくつか感じる。おいおい、この商店街実は暗部だらけじゃねぇか?そいつらは若干そわそわしながらユキを眺め、後ろについてる兄さんにエールを送っている。
どれだけ見守られてんたアイツは。つーか、部下達も任務不足らしいな。もっと任務を回してやろう。

「ユキ」
「……あ、シカマル。」

追いついたユキに声をかけるとぽやんとしながら返事をしてくる。本当、なんでこんなボーッとしてる奴があんなに強いんだか。

「おはよう?」
「あぁ、はよ。つーかお前、荷物から色々落としすぎ。」
「ええ?あー大丈夫大丈夫。よくあるからー。」

よくあるのかよ。思わず半目になって呆れる。

「家に帰ると扉のノブにエコバックに入ってかかってるんだー。だから大丈夫大丈夫。」

どんだけ過保護?
コイツが暗部を辞めたとき、辞めないでという声も勿論あったのだが、アカデミー頑張れ!という声も多かったらしい。それはユキが特に正体を隠すことなく振る舞っていたからということもあるし、部下なら結構無条件で無防備だということも関係しているんだと思う。
無防備だからといって突然襲撃されても対処出来るほどの実力の持ち主なのだから問題はないが、部下はそれでも心配で堪らない。そして同時に嬉しくて仕方がない。これだけ信頼されてるんだから俺達も隊長に何か返さなきゃ、と乏しい母性本能を発揮させたり、庇護欲が開花したり。
当時8歳のガキが隊長になったときは様々な不満が暗部内を駆け巡ったらしいのだが、その圧倒的な強さと、文句も言わずに働き続けるその健気さに大の大人は負けた。

「お前な…」
「今日はナルトが家にお昼食べにくるのー。シカマルも来る?」
「ナルトが?」

ナルトが他人の作ったものを食べれる事が出来るようになるなんて、誰が予想出来ただろうか。

「あー、でも…」

俺が行ったらすげえ睨まれる。二人きりを邪魔しやがって!って。

「行こー行こー。」
「おい。」

ズルズルと引きずられるように片手をとられる。なんか生暖かい視線を至る所から感じるけど、流石にこれをナルトに見られるとまずい。死ぬ。

「分かったよ。ちゃんと歩くから離せ。」
「ふんふーんふんふん。」
「ったく。」

鼻歌を歌いながら先を歩くユキに内心苦笑して。どうやらユキ相手だと俺のなけなしの母性本能も発揮されるようで。
繋いだ手を離さずに空いた手で荷物を奪う。首を傾げて見上げるユキ。柄にもない事をした自分が可笑しくて笑みを零すと、ユキもヘらんと微笑んだ。