キミへの対処法


「おーい吉田!一緒に帰ろうぜ?」

サッカーボールを片手に教室の後ろから手を挙げて名前を呼ぶ主は我が学年のモテ男、大野くんである。
教室中の視線が集まってくる。特に冬田さん。やめてー!私を見ないでー!!
思わず頭を抱えてしまいそうになるのを我慢して、必死に聞こえなかったフリをしながら教科書をランドセルに詰め込む。すると聞こえなかったと思ったのか席まで様子を見にくる大野くん。不思議そうな顔をしながら覗き込んでくる。

「吉田?」
「…はい。」
「一緒に帰ろうぜ。」
「いや、あの…杉山くんは?」
「杉山?いるよ。」

振り返って扉の辺りを見ると、杉山くんが苦笑しながらこっちを見ていた。待たせているということに申し訳無さを感じるものの、味方は居ないんだ!と涙が込み上げてきそうだ。

なにがどうしてこうなった。

転生してから前世の記憶を携えて、順調に小学生まで育ってきた。周囲の環境に昭和臭さを感じながらも過ごしてきた中での転校。そして私は現実を見る。まさかの”ちびまる子ちゃん”…なんでだぁぁぁあ!!
自己紹介の時に主要キャラをガン見してしまったのは仕方のない話だ。まあ、所詮警戒心の薄い小学校の低学年。それを不審に思うような事もなかったので、何人かと早々に仲良くなることが出来た。あ、勿論まるちゃんとたまちゃんもね。城ヶ崎さんと笹山さん超美人。可愛い。と内心ウハウハしていたのが悪かったのだろうか。

まるちゃん達が話しているのを一歩後ろで眺めていたり、校庭でサッカーしているのを城ヶ崎さん達と眺めていたり。殆ど、というか全く接点のなかったこの一週間。まぁよく目が合うなーとは思っていたが、転校生だし最初にガン見したし、お相子かなぁと思っていた。
が、昨日の放課後。物語は急展開を迎えた。

「吉田。」

今日は公園でも行くー?とまるちゃん達と相談しながらランドセルを背負う。公園(笑)と内心思いながら扉に差し掛かったとき、いつの間にか近くにいた大野くんにガシッと腕を掴まれた。

「へ?」
「大野くん?どうしたの。」
「…」

私は間抜けな声を出して、まるちゃんは不思議そうに大野くんに尋ねる。後ろでたまちゃんも不思議そうな顔をしていて。なんだこの状況、と思っていたその時、大野くんがニカッと笑った。

「やっぱりな。」
「は、へ?」
「ちょっと大野くん、何やってんの。ユキちゃんを放しなよ。」
「そ、そうだよ。ユキちゃん困ってるじゃない。」

いつもと少し様子の違う彼を不審に思ったまるちゃんとたまちゃんだが、穏便に事を終わらせるために小声で注意をしてくれる。うん、大人な対応ありがとうございます。私は相変わらず間抜けな声を出している。いや、だって意味が分かんないんです。そんな混乱している私に、彼は更なる爆弾を落とす。

「俺、お前のこと好きだわ。」
「「「へ?」」」

私達三人は間抜けな声を出して固まってしまう。そして大野くんは声を潜める事なく話したもんだから、クラス中の声が止み、視線が集まる。普通ならヒューッとか冷やかしてくる男子が居るが、そこは大野くん。突然の告白と、それをしたのが大野くんということで、反応が出来ていないらしい。

「えーと…、ゴメンナサイ。」

冷静さを取り戻して返事をすれば、ええっ!?とクラス中が驚く。おい、なんでそんな驚く。

「なんで?」

大野くんもなんでそんな不思議そうなの。あ、コイツモテ男でしたー。でも残念、私にとってはただのガキさ。と思いながらも相手は小学生。トラウマにでもなったらたまったもんじゃないので、遠回りに断る言葉を探す。

「えーっと、ほら。キミの事よく知らないし。」

うん。妥当な返事じゃね?よしよしと思っていると大野くんも思い付いたような顔をした。

「あー、確かにな。」

でしょう?なかなか知らない人とは付き合えないものだ。一目惚れだとしても多少時期をみるだろうしね。

「じゃあ一緒に帰ろうぜ。」

…なにがじゃあ?

「そうすれば俺の事知れるだろ?」

そ、そうきたかー!!遠まわしすぎて断った事が伝わらなかったようだ。
そこにまるちゃんがハッと意識を取り戻したようで、助け舟を出してくれる。

「ちょっと大野くん!アンタいい加減にしなよ!」
「なんだよサクラ。」
「あ、あたし達が先にユキちゃんと約束してたんだから、ユキちゃんはあたし達と一緒に帰るんだよ!」

まるちゃん…!
ジーンとしていると大野くんが首を傾げる。

「じゃあ、お前等もついてこればいいじゃねぇか。」
「そういう事じゃ…」
「まるちゃん!」

まるちゃんが白熱してきてしまったので、声をかけて止める。こんな事で喧嘩なんてして欲しくないからね。

「喧嘩しないで…今日は皆で帰ろう?」
「ユキちゃん…」

心配そうな二人に可愛いなぁと思いながら笑う。

「まるちゃんありがと。」
「無理しないでねユキちゃん…」
「うん、たまちゃんもありがと。」
「んじゃ行くか。」
「あ、うん。」

掴んでいた腕を放して自然と繋がれる手。それにクラスが湧いて。

ほんと、何がどうしてこうなったのか分からないが、一つ言える事がある。それは、

「吉田ー?…ユキ!」
「!」

不思議そうに覗き込んでくる大野くんに、すでに絆されかけている自分が居るという事。ニカッと笑った彼に心臓が跳ねたのは気のせいと思いたい。








最近まるちゃんの大野くんがふとしたときに格好良くて堪らない。不意打ちでまるちゃんをサクラじゃなくて、まる子って呼ぶんだこの子!キュンとするじゃないか!