師の条件

※『出会えた奇跡』と同主設定。




「私はあなたを信用していませんよ!」

朝礼で吉田さんの紹介が終わり、生徒が各々教室に戻ろうとした時。安藤先生が吉田さんに向かって大きな声で宣言した。その声を聞いて生徒達は皆会話を止め、遠巻きに様子を窺う。
安藤先生が担任している一年い組の生徒も不安げに聞いていた。そんな中、言われた本人は衝撃を受けることも、泣くこともなく、静かに安藤先生を見ていた。上から下までじっくりと観察し、しばらくの沈黙の後、ポツリと冷めた瞳で吉田さんが話し始めた。

「あなたは本当に教師ですか?」
「…どういう意味です。」
「生徒の不安を煽ってどうするんですか。私を信じるも信じないもあなたの自由です。けれど、それを生徒に押し付けるなんて師のすることじゃない。」
「なにを…!」
「なぜなら」
「!」

彼女の強い瞳に圧倒される。息が、詰まる。

「なぜなら、それは生徒の判断力を培う場を奪う事になるから。」
「…」
「教師ならば、生徒一人一人に考えさせて…その上で間違えたら理由を込めて諭すべきです。教師が黒といったら白も黒、だなんてそんなの師弟の関係ではありません。」

ただ真っ直ぐに安藤先生を見つめる彼女から目を離す事が出来なかった。それ程大きな声でもないのに、彼女の言葉は校庭中に響いていて、生徒達は思い思いの表情をしている。

「不安でも、心配でも。彼らを信用するべきです。彼らはきちんと、子供という武器の使い方を知っています。」

視界の端にきり丸がうつる。あぁ確かにそうだ。あいつはアルバイトでよく子供という立場を利用している。

「彼らは忍としてまだ未熟です。だから、間違えるかもしれない。けれど間違えたら、それを正解に導いてあげるのが教師でしょう?」

私は、きちんと教師に成れているだろうか。

そう自問している間に、安藤先生は踵を返して行ってしまった。一瞬見えたその顔は険しく、深く物事を考えているようだった。

「お前言ったなぁ。」
「凄いや吉田さん。感動しちゃった。」
「まぁ確かに吉田さんの言う事も一理あるよな。」
「安藤先生の顔見た?俺可笑しくって。」
「はは、図星だったみたいだしな。」

五年生が彼女の周りに集まる。生徒は既に疎らになっていて、随分思案していたのだなと苦笑する。五年生は彼女と学園長の最初のやり取りから見ていたらしいし、彼らは彼らなりに思うところがあるんだろう。

「この後の予定は?」
「取り敢えず野菜洗いと薪割りかなぁ。あ、薪拾いもついて行かなきゃ。」
「へぇ、頑張れよ。」
「豆腐お願いします。」
「兵助はまたそれかー。んじゃ俺はねぇ…」
「残念。献立は既に決まってる。鯖の味噌煮定食と唐揚げ定食でーす。」
「よっしゃ!早めに食堂行かなきゃな。」
「豆腐は?」
「お味噌汁がどっちも豆腐。」
「やった!」
「うーん、どっちにしよう…」

そうだ、私もこれから彼女を見極めなければならない。やっぱり忍だから。だから取り敢えず、彼女と話すことから始めよう。

「吉田さん」
「あ、はい。」
「一年は組教科担任の土井半助です。宜しくお願いします。」
「宜しくお願いしまーす。」

先程の言葉を、その瞳を、信じてみたいと思ったから。





分かりにくいですが土井先生視点でした。
他サイト様のを読んでいて、安藤先生に疑問を感じたので書いてみました。この主はやるときはやる子。フリーで忍をやってるだけあってただのおバカではない。