名付けた感情

任務から三徹で漸く帰って布団で寝ていたら次の任務だとかいってふざけた内容で叩き起こされたのが半刻前。未だに働かない頭で屋根裏の部屋から降りると、見覚えの無いところだった。

「どこだ此処ー…」

むにゃむにゃと寝ぼけながら目を擦る。すると聞き覚えのある声に顔をあげた。

「ん?誰でィお前。」
「んー…?あ、沖田隊長お早うございますー。」
「誰だって聞いたんでさァ。見覚えの無い、しかも女がなんで屯所に居やがるんてすかィ。場合によっては…」

カチャリと刀を鳴らす沖田にユキは開かない目を精一杯開けて答える。だめだ、眩しいわ。

「んんー?すんません沖田隊長、副長の部屋まで連れて行ってくれませんか?」
「土方?なんでィ土方さんの女ですかィ。」
「副長のぉ…?ナイナイ。迷子です迷子。」
「迷子?ふーん、まあいいぜィ。ついて来な。」
「ふぁーい…むにゃむにゃ。」

呆れた目で見てくる沖田さんについて副長の部屋へと向かう。呆れながらも沖田さんは置いていったりすることなく、案内してくれた。



────

 沖田Side

「土方さん入りやすぜィ。」

一声掛けると同時に障子を開ける。土方は視線を書類に落としたまま眉間に皺を寄せた。

「あ?なんか用か。」
「いやー土方さんも隅におけねぇや。こんな真っ昼間から女連れ込んで上司と部下プレイとは。気持ち悪ぃな死ねよ。」
「なんの話だコラ…ってユキじゃねぇか。遅ぇぞ。」
「すんません、迷いました。」
「迷…お前何年此処にいると思ってんだ。」

呆れた表情で顔をあげた土方。というかこの女は何年も此処にいるのか?俺見たこと無えんですけどねィ。

「寝てないんすよー。三徹なめんじゃねーぞコラァ。」
「それだけ元気ならまだまだ逝けるな。」
「すんまっせん、ナマ言いました。大体退はどうしたんですかー。ミントンやってたら殺す。」
「山崎は任務だ。残ってんのがお前しか居ねえんだよ。」
「ちっ」

山崎?ということは監察の一人なのか?つっても女だよな?え、これ女装?徹夜していたらしいから隈は出来てるし、少し肌も荒れてるみてぇだけど、顔は…まあ悪くねぇし。睫毛だって長ぇし、唇だってぷっくりしてて…え、これ女だよな?女装なのか?
土方さんは女に書類を放り投げた。それを嫌そうな顔をして受け取り、彼女は書類に目を通し始めた。

「…土方さん」
「あ?なんだ総悟。」
「このお人は結局どなたで?」
「は?いやお前…何度か会ったことあるだろう。」
「は?俺がですかィ?」
「あぁ。コイツは監察方の隊長だ。」
「え。」

俺の知る監察方の隊長といえば、端正な顔立ちに妖しげな雰囲気。存在感は凄くあるのに気配を感じさせない。ふらりと姿を現してはふらりと消える、監察の間では崇められるくらいの存在の、男だ。

「監察の隊長って、男…でしたよねィ。」

この姿で、この顔で、男ですかィ。腑に落ちない、というよりもどこか心は沈んでいて。いやいや、なんで俺が沈むんでィ。別に男だろうが女だろうが俺には関係ねぇっつーのに。…男か。

「なんだユキ、言ってなかったのか?」
「えー?副長、言ってませんでしたっけ?」
「いや知らねぇけど。言ってないんじゃねぇか?」

なんですかィ。俺を放置するとはいい度胸でさァ。カチャリと何処からともなくバズーカを取り出して土方に向ける。

「近っ!?いや待て総悟。ゼロ距離はねぇだろゼロ距離は。」
「煩いですぜ土方さん。」
「待て待てェ!!ユキは女だ!」
「は?」

ドカーンッッ!!

「あー。」
「…女、なんですかィ?男じゃなくて。」
「あ、はい。普段は男装してるんですー。そのほうが色々都合も良いですしね。」
「女…」
「この事知ってるのは局長と副長くらいです。」
「山崎は?」
「アイツは多分知らないと思います。なんかキラキラした目で隊長の女装は素晴らしいです!って言ってたんで。」
「ふーん…」

女…、女ねぇ。
さっきまで沈んでいた心はいつの間にか浮上していて。土方よりも遅く知ったということに不満はあるが、直属の部下よりも先に知ったということに優越感を抱く。優越感?

「…イヤイヤイヤ」
「?」

優越感とか無いだろ、無い。ナイナイ。そういえば土方の女っつーことも否定してたし…

「俺は一番隊隊長の沖田総悟でさァ。」
「あ、監察方隊長の吉田ユキです。」

自身の身に覚えのない感情に戸惑いつつも緩む頬。身に覚えが無くても知識としては知っている感情。俺がこんな感情を抱くだなんて思いもしやせんでしたねィ。

「これから宜しくお願いしまさァ。」

恋、なんて柄じゃねぇ。