羨ましい幼なじみ

※アニメ最終回後の話。



「あれ、怜くん?」
「ユキ?」

今日はハル、真琴、渚、怜、そして俺の五人で新しく出来たスポーツ用品店へ行く為に、少し離れた場所まで電車に乗って来ていた。
駅から出て暫くして怜を呼ぶ女の声に、俺達全員は興味津々に顔を向けた。それに動じることなく、怜は女を見て少し驚いた顔をしていた。
そして俺は、彼女を見た瞬間に息が詰まった。

「こんな所で何やってるんです?」
「買い物ー。ほら見てよこれ、新刊出てたんだよー。」
「へえ、面白そうですね。」
「うん、読み終わったら貸したげるねー。」

仲の良さそうな会話に耳を傾けるも、何故だか俺の頭では殆ど処理がされない。顔が熱い。息が詰まる。心臓がランニングした後みたいにうるさい。なんだよコレ。

「ねえねえ怜ちゃん、この子誰?」
「僕の幼なじみです。」
「はじめまして。」
「「お、幼なじみーー!?」」
「なっ!!?」
「ふぁ…」

れ、怜の幼なじみだと!?お前ハル達と俺の仲を散々妬いてたくせに、お前にだってこんな可愛…幼なじみがいるんじゃねぇか!!つーかこの一大事に欠伸してんじゃねぇぞハル!

「じゃあ私行くね。」
「はい、気をつけて下さいよ。」
「うん。皆さんも、お邪魔しました。」
「あ、ううん!」
「またね!」

真琴は少し慌てた様子で、渚は大きく手を振って彼女を送り出した。ぺこりと小さく頭を下げる姿を残念に思いながら、今はこの顔の熱を少しでも早く冷まそうと手で扇ぐ。

「ねえねえ怜ちゃん!あの子彼女?」
「!」
「ちょ、渚!」

渚!?そ、そうか!怜の彼女という可能性もあるのか!!?確かに仲良さそうだったし…。くそ!ブーメラン眼鏡の癖に!!

「え?違いますよ。」
「なんだぁつまんない!」
「あはは…」

よ、よかったァァァ!!
そうだよな!そうに決まってるよな!ブーメラン眼鏡なんかがあの女の彼氏な訳ないよな!!ああ焦っちまったぜ俺とした事が!

「何なんですかつまんないって…」
「それより早く行くぞ。」
「そうだねハル。渚、怜、行こっか。」
「あ、はい。」
「うん!」
「あれ?凛ー、行くよー?」
「…」
「凛ちゃん?」
「!な、なんだよ。」

覗き込んできた渚に若干退く。反応が遅れたからって覗き込まなくてもいいっつーの。

「あれ、凛さん顔が真っ赤ですが大丈夫ですか?」
「なっ!!」

怜に指摘されて再び顔に熱が溜まる。それに加えて渚が良いこと思いついた、みたいな顔をしてくるものだから口元を手で隠し、早足でその場を離れることにした。

「あ!凛ちゃんもしかして…」
「う、うるっせぇぇぇえ!!さっさと行くぞ!」
「あっ、ちょっと凛!…行っちゃった。俺達も行こうか。」
「ふふっ、うん!そうだね!」
「あ、あの、凛さんは何故怒ってしまわれたんですか?」
「怜お前…」
「え、何ですか遙先輩。」
「くくっ、置いてくよ怜。」
「え、あ、待ってください皆さん!」

後ろでやけに楽しげな声が聞こえた気もするが、高鳴った鼓動を落ち着けるにはもう少し時間が掛かりそうだ。






気付いてないのは怜ちゃんだけ。