好きな所

※『出会えた奇跡』と同主設定。天女編。



「ふーん、アンタが傍観者気取り?」
「…はあ?」
「たいしたことないわね!羨ましーい?私の位置が!」
「…(ドン引き)」
「でも残念でしたぁ!逆ハー主は私よ!皆みーんな私に夢中なんだからぁ!」
「なんか…負け犬ほどよくほえるっていうよね。」
「な、なんですってぇぇ!?」

ダダダダダッ

「「どうしました天女様!?」」

忍者らしからぬ足音を立ててやってきたのは六年い組の立花仙蔵と潮江文次郎。必死な形相でぷぷ、笑える。

「聞いてよ仙蔵ぉっ!吉田さんが酷いこと言うのぉっ!」
「文次郎ぉっ、吉田さんが私のこと邪魔だって…」
「「え?」」
「「…」」

天女に変装して真似をしてみる。ぷぷ、ぶっさいくな顔。眉をしかめて凄い睨んでくる。そんな顔さらして愛想尽かされても知らんよ。ぶはっ。

「な、何なのよアンタ!」
「アンタこそ…!仙蔵ぉっ文次郎ぉっ、私が本物よ!勿論分かるわよねぇ!?」
「なっ…違う!私が本物よぉっ!二人なら分かるわよねっ?」
「「…」」

『お、おい仙蔵…』
『うむ、どちらかが天女様。どちらかがユキということなのだろうが…』
『全く分からん…』

矢羽根で会話する二人。
聞こえてる。聞こえてるよお二人さん。

「な、なんで分かんないのよぉっ!」
「二人とも私のことが好きなんでしょぉ!?よぉく見てよ!」
「は、はあ…」
「しかし何処を見ればいいのか…」
「なんでぇっ!?この可愛い顔も、可愛い声も好きでしょおっ?甘い香水だって、仕草だって!」
「顔、ですか。しかしお二人とも同じで…」

つーか外見だけかよ。天女本人も好かれる理由は外見だと思っているみつな発言だ。此処に来る前は違う顔だったとか?うーん分からん。

「なら、こういうのはどうでしょうか。」
「!三郎ぉっ!」

突然現れた鉢屋(勿論指示した)に天女が甘ったるい声をあげる。

「吉田さんは元とはいえフリーの忍。ならばクナイや手裏剣を投げてみれば分かるのでは?」
「ふむ、それはそうかもしれんが…」
「やっやだ!やだやだ!」
「鉢屋。天女様に傷が付いたらどうするのだ。」
「心配有りませんよ。だって先輩方は六年間此処で学んで来たんですから、顔ギリギリに当てる事だって出来るでしょう?」
「む…」
「まあ、それはそうだが…」
「や、やだよ、やだやだ!」
「天女様任せて下さい。」
「そうですよ。俺も仙蔵も此処で六年腕を磨いてきたんですから。」
「やっ、やだよ!なんで分かんないのっ!?私だよっ!?なんで、なんでっ!?も、もう、仙蔵も文次郎も嫌いっっ!!大っ嫌い!!」

ダダダダッと自室へと走り去る天女本人を見送る。立花くんと潮江も呆然としている。その様子をからくりにおさめながらポツリと呟く。かつて、変装を得意とした私が陥った事の一つ。

「本当の自分、か…」

ピクリと反応を示した鉢屋を視界の隅に捉え、私はそっと目を閉じた。





天女様は見た目を存分にいじって貰った子でした。元の自分が嫌いで、でも自分を見て欲しくて。
きっと鉢屋含め自分を隠して生きてきた主は自分を隠すのに長けてる分、誰よりも自分を見て欲しかったんじゃないかな、と思います。