君と祭
「おい、なんでまだ着替えてねェんだ?」

家に帰ると机の上に
浴衣と巾着、一枚のメモが置いてあった。これは何だろうと睨めっこすること30分。高杉さんが玄関から入ってきた。

「祭りに行くから着替えろって書いておいただろォが。」

すいません、達筆過ぎて読めないんです!と思いつつ浴衣を広げる。黒の生地に青や紫の花が散りばめられているデザインで、大人っぽい色合いでも鮮やかな花の模様で地味になっていない。帯は薄い紫で全体を纏める形となっている。
ふと高杉さんを見るといつもの鮮やかな着物ではなく、グレーをベースとした浴衣で、黒い帯。色気半端ないんだけど。いつもの危険な香りが落ち着いてただの格好いいお兄さんだよ!!

「あ?なんだ、脱がせて欲しいのか?」
「…いえ、すぐ着替えます。」

ビックリした!高杉さんの所から死角になる場所で着物を脱いで浴衣に着替える。鏡で後ろも確認してから髪に取り掛かる。

「高杉さん、着替えは終わったので中入って待ってて貰えますか?」
「…おめェはホント危機感がねェな。」

溜め息をつきながら高杉さんが中に入ってきた。呆れてますね。
おっと、髪髪。いつもは簪で纏めてお団子にしているのだけれど、せっかくだから変えようかな。ヘアアイロンの電源を入れて温める。
お化粧も直しておこう。ちょっと濃い目で。化粧品や小物、鏡を机に置いて床に座る。
温まったアイロンで髪を巻き、上の方で一つに纏める。上手く巻けなかった所を巻き直してからスプレーで固める。少しバラして…、よし出来た。
髪飾り何かあったかな…と手元の小物入れを開けたとき、鏡に高杉さんの顔が映った。

「ほォ、短ェ間に化けたじゃねェの。」
「化けたって…」

思わず苦笑いする。それにしても近くないですか。
いつの間にかすぐ後ろに来ていた高杉さんは私を包むように座っていて、物凄く近い。髪を一束掴んで目を伏せ、唇を寄せる。その仕草はとても綺麗で反射的に体が固まり、魅入る。
視線を上げた高杉さんと鏡越しに目が合い、かぁっと顔に熱が溜まり赤くなった。

「ククッ、……髪飾りはコレにしろ。」

そう言って私の頭に挿した其れは青い石の入った簪。シンプルだけどキチンと主張するので、これ一つでも着物に劣らない。

「綺麗…。ありがとうございます。」
「…行くぞ。」
「はい。」

巾着に財布を詰め込んで、先を行く高杉さんの後を追った。


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「わぁっ、結構大規模ですね。」

綿飴、かき氷、焼きそば、チョコバナナ…、射的、輪投げ、鮫釣り…。沢山の出店に心が踊る。
子供みたいにキョロキョロしていたからか高杉さんが笑った。

「ククッ、おめェ迷子にでもなりそうだな。」
「…大丈夫ですよきっと。迷ったら入口集合でお願いします。」
「迷うこと前提か。おら、ここ掴んどけ。」

高杉さんはそう言って腕に掴まらせ、そのまま腕組みをした。何やってもこの人は様になるな、と感心しながら私たちは祭りへと繰り出した。

「…普段からそんなもん食ってるんじゃねーだろうな。」

たこ焼きを頬張る私を見ながら高杉さんが言った。

「今日だけですよ。お祭りですからね。」
「…」

信用してないですね。いや、この食べっぷりを見たらしょうがないのかもしれない。高杉さんがふと空を見上げて目を細めた。

「そろそろか、行くぞ。」

たこ焼きを仕舞われて手を取られる。あまりに自然にされたソレに対応が遅れた。少し早足になった高杉さんを見上げると、心なしか口元が綻んで見えて目を見張る。
木々の間を抜け、道無き道を登り辿り着いた小高い丘。息の上がった私とは反対に高杉さんは涼しい顔をして空を見上げている。その瞳は子供のように輝いている。本当にお祭り好きなんだな。
息を整えて空を見上げた時大きな花火が一つ、目の前に広がった。ドンッという音が全身に響き、咄嗟に手を強く握った。そんな私を一瞥して高杉さんは空を見上げる。



「綺麗ですね。」
「…悪くねェ。」

…少しだけ強く、手を握り返してくれた。


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このは様リクエストありがとうございました!
どうしても高杉さんが食事をする場面がイメージ出来なかったのでお祭りにさせて頂きました。それなのにお祭りシーンが少ないという結果;お世話係なだけじゃないんだぞと見せつけつつ、ほのぼのを目指しました。少し子供っぽくなったかもしれないです。
ありがとうございました!
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