遠い君
「はっ、はっ、…ユキ!何をしている!来い!」
「えぇ?まだやるの?もう疲れたよー止めようよー。」

俺にはアカデミーの授業で対戦して以来、しつこく修行を申し込んでいる相手がいる。そいつはクラスでは一人でいることが多く、一緒にいるとしても幼なじみだけ。嫌われてるとかではなく一匹狼のような奴で、いつもフラフラとしているのに女子からも人気があった。

「来ないならコッチから行くぞっ!!」
「えぇー。」

男女合同で行われた組み手の授業。キャーキャーと騒ぐ女子を横目に周りを見渡した。この頃から俺は座学も実技もトップで、正直言えば慢心していた。その慢心した心を見事踏み潰したのがユキだ。
実際にその組み手で勝ったのは俺の方だった。しかし組み手をしている最中、ユキは半目で欠伸をしながら、俺の攻撃を完璧に防いでいたのだ。最終的に落ちていた木の葉に足を滑らせたユキが後頭部を打ち付け気を失うことで決着がついたのだ。
その後彼女の成績を調べてみれば、どれも平均。実力を隠して生活している彼女は俺よりも立派な忍であることが分かり、自身を見直したのだった。
そんな俺にとって衝撃的な事件から数日後、甘味を奢るという約束で再戦を果たした俺は、見事に惨敗した。それが悔しくて、けれど何処か嬉しくて、以来何度も修行という名目で戦いを挑んでいるのだった。

「お腹空いたよぅ。」
「はっ、はっ、はっ、…、最後に一戦だ!」
「次で終わり?」
「あぁ、今日はな。」
「終わったら…?」
「甘栗甘だ。」
「…………ひゃっほーっっっ!!!」

甘味一つでこれだけ喜べるコイツはある意味幸せだと思う。そして、こんな事でテンションの上がったコイツに、俺はいつも秒殺されるんだ。

それにしてもどうして勝てないのだろうか。歳は同い年であるし、相手は女だ。日向一族の分家とはいえ、木の葉でも名門とされる家で幼い頃から厳しい修行をしてきた。日向家始まって以来の天才とまで言われている。それでも、勝てない。

「…」
「また難しい顔してるよーモグモグ。」
「あぁ。」
「どうせ何で勝てないだとか考えてるんでしょ?」
「あぁ。」
「簡単なことだよ。」
「どういうことだ?」
「『経験』」
「…経験?」
「そ、経験。ネジに足りないのはね。まだ下忍だもん、仕方のないことだけどね。」
「…」
「いくら知識があっても、実戦で使えなければ意味がないよ。パターン化された組み手なんて以ての外。」
「…」
「大丈夫!私なんて直ぐに抜けるよ。」

勿論、そんな簡単には負けてあげないけどね!!




あれから数年、昔ほど頻繁に会うことは無くなり、俺も彼女も各々忍務に明け暮れる日々を過ごしていた。中忍になって単独任務が増え、元々チームでもなかったユキと組む事など殆ど無かった。それどころか、風の噂では暗部に入ったとか。噂は噂として信じていなかったが、火のないところに煙は立たない。それを実感することとなる。

「隊長!どこ行ったんですか隊長!」

今日は朝から面をした暗部の人達が、火影邸を走り回っていた。それを横目で見つつ、報告書を提出しに行く。扉をノックして開ける。

「失礼します。」
「!ネジか。」
「報告書の提出に参りました。」
「あ、あぁ。御苦労。」

妙にソワソワした火影様に怪訝な顔をしつつ、首を動かさずに視線だけで部屋の様子を窺う。特に変わったところは見られないが、湯飲みが二つ、まだ湯気が立っている状態で置いてある。俺が来る直前まで誰かが居たということか。

「…火影様、何か変わったことはありませんでしたか?」
「か、変わったこと?知らんな。」
「先程廊下で暗部の人達が走り回っていましたが…」
「あ、あぁ、そうなのか?それはいかんな、廊下は走るなとアカデミーでも習ったろうに。」

そういうことじゃない。俺が言いたいのは、その元凶はアナタでは?ということだ。いや、この様子ではほぼ100%の確率で火影様が元凶である。

「…火影様。」
「し、知らんぞ!限定販売の葛餅なんぞにつられてはいないからな!!」
「「……」」
「あ。」
「ちょ、火影様ー!!それ意味ないっしょ!」
「す、すまん。」

驚いた。気付いたら隣に立っていたコイツに。呆れも含めて油断していたのは事実。けれどまさか気付けないなんて。

「ユキ?」
「おーネジだ。久しぶりだね。」
「お前、今まで何処に…。最近は家に行ってもいないし、連絡も取れないし……」
「えー?ゴメンゴメン。殆ど缶詰め状態にされてたんだよ。今はちょっと休憩中。」

遠くで隊長ー!!と叫ぶ声が聞こえる。まさかコイツ…。嫌な予感に冷や汗が浮かぶ。

「そろそろ此処も潮時か…。ネジ、久しぶりに甘栗甘行こーよ。今日は忍務終わりでしょ?」
「あ、あぁ。」
「じゃあ火影様、お邪魔しましたー。」
「葛餅は置いて行けよ。」
「分かってますって。じゃあ、また。」
「ほどほどにしてやれよ。」

手を引かれ、窓から飛び出す。後ろで火影室の扉が蹴破られた音と、隊長ー!!と叫ぶ声が聞こえた。繋がれた小さな手を見ながら、ユキに勝つにはまだまだ経験が足りないことを実感し、溜め息を一つ零した。








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ニマメ様リクエストありがとうございました!
ほのぼの甘とのリクでしたが、甘というよりもギャグ調に…;最強主で書こうとしたのがまずかったのか…。甘々な話は近いうち短編にアップさせて頂きます。すいません。
ありがとうございました!
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