彼のデートプラン

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その機会は唐突に現れた。

「銀さん、姉上が商店街のくじ引きでカニ鍋セットを当てたんです!折角だからクリスマスに宴会でもやろうか、ってことになって。」
「銀ちゃん!カニ!カニ食べたいアル!行くネ!」
「おーっ、カニに酒。たらふく食うぞー!」
「キャホーッ!!」
「いや、クリスマスの話ですよ。まだ先の話じゃないですか。」

そこでピタリと動きを止める。…クリスマス?

「…っつーことは、お前ら居ねーの?」
「へ?まぁ皆酔いつぶれるだろうから、ウチに泊まるんじゃないですかね。」
「私もお泊まりするネ!他には誰が来るアルか?」
「姉上は九兵衛さんを呼んでるみたいだよ。あとはその時偶然会ったさっちゃんさんも来るみたい。」
「ツッキーも呼んで女子会するアル!」
「僕らが居る時点で女子会じゃないけどね。」

クリスマス、クリスマスか…。毎年気にもしたことがない日だったけど、不意にアイツの顔が浮かんだ。今年は、アイツと過ごしたいって。まだ誘ってもねーけど邪魔者の居ないその聖なる日に二人きりで万事屋で過ごすプランを計画する。それだけでにやつく口元を手で隠して軽く頭を掻いて言った。

「あー、俺パス。」
「え!?」
「なんでヨ銀ちゃん!」
「そ、そうですよ!折角のカニ鍋なのに…。あ、九兵衛さんはお肉を持ってくるって言ってましたよ!」
「クリスマスだぜ?野暮なこと聞くんじゃねーよ。コレに決まってんだろ?」

そう言って小指を立てる。

「キャバ嬢アルか?遊女アルか?」
「いや、普通に長谷川さんと呑む約束でもしてたんじゃない?」
「てめぇ等俺を何だと思ってんだよ。」
「天パ。」
「万年金欠のダメ人間。」

…泣いてもいい?

二人も俺が行かないと理解したのか、二人で盛り上がっていた。それを横目にいそいそとアイツのいる甘味処に向かう。普段に無いその行動力に自分も驚きだ。どうやって誘おうか一応シミュレーションするもののピンとくるものが無いまま店に着いてしまった。

「あ、いらっしゃいませー。」
「よう。」
「いつもので良いですか?」
「おー、頼む。」

いつものってなんか良いよな。だって、俺のこと覚えてくれてるって事だろ?そりゃあ結構この店来てるし、一緒にストーカーからの土産食う仲ではあるけど、言ってしまえばそれだけだし。…言ってて凹んできた。とにかく、彼女にとって少なくともその他客扱いでは無いわけだから自信を持て俺!

「お待たせしました。」
「おーサンキュー。」
「ではごゆっくりどうぞ。」
「あ、ちょっと待て。」
「?はい。」

ちょいちょいと手招きをして彼女を呼び戻す。お盆を抱えながら少し首を傾げる彼女は心底不思議そうだ。ドクンドクンと心臓が煩い。平静を装って話し掛ける。

「お前さ、25日暇?」
「25日?」
「そ。クリスマス。」

キョトンとした顔は普段あまり見ないものでガラにもなくテンパる。

「な、なんかよぉー。ウチの従業員共が女子会だって言ってクリスマスに宴会するらしいんだよ。」

新八は女子じゃねーけど、そんな詳しく話してねーし大丈夫だろう。

「それで俺は一人寂しく留守番っつー訳。だからよぉー、家で呑まねえ?」

付き合ってもねーのに宅飲みとか嫌がられるかな。つーか、そんな易々と男の家に上がるような奴じゃなさそうだしな。
あ、いや俺はそんな気全然ないよ?ほら、俺って積極的な女は嫌いだし?そりゃあコイツが酔って積極的に来ちゃったら分かんねーけど?まあそれはその時考えるとしてだな。

「お邪魔しちゃっていいんですか?」
「え?お、おう。」
「わ。じゃあお鍋しましょうお鍋。一人じゃ寂しくて。」
「おーいいぜ。」

あれ、なんか結構普通に決まったぞ?なんだ、もしかして意識されてない感じですか?

「みぞれ鍋にしましょうよ、寄せ鍋の。」
「なんだそりゃ。女ってのは豆乳とかコラーゲンとかじゃねーの。」
「それもいいですけど、気分はみぞれ鍋です。大根おろしがたっぷり入っててー…」
「へー、なんか美味そう。」
「でしょ?」

でもまあ、こんなに喜んでくれてんなら今はまだいいかな、なんて思ったりして。


────
25日。神楽がはしゃいで万事屋から出て行ってから直ぐに開始したケーキ作り。銀さん何でも出来ちゃうからね。夜な夜な焼いておいたスポンジに生クリームとイチゴを飾っていく。
…よし、完成。息を吐いてから時計を見ると5時を回った所だった。そろそろ行くかと腰をおろす事無く上着を羽織り、木刀を腰に差し、ブーツを履く。マフラーに顔を埋めて外に出ると冷たい北風に思わず体を縮こませた。

「あー寒。」

ゆっくりゆっくりと待ち合わせ場所の甘味処に向かう。時間は余裕を持ったから10分前くらいには着くだろう。団子を一つ頼んで時間を潰して…。買い出しはこのまま一緒にする事になってるからいいとして。

「あ、坂田さん。早いですね。」
「おー、甘味は別腹だからな。食いながら待ってようかと思って。」
「はーい。」

パタパタと仕事に戻る彼女を見てお茶を一口飲む。温けぇ…。

「お団子お待たせしました。坂田さん、私一度家戻ってもいいですか?」
「あれ?仕事は終わったのか?」
「はい、少し早めにあがらせて貰いました。すぐ戻ってくるんで食べてて下さい。」
「おー、行ってこい。」

元々早めに来たんだし。客の混み具合によっては延長も考えていたので、それくらいどうって事ない。
食い終わった頃アイツが戻って来た。早えな。立ち上がって迎えると、そのまま方向を変えて歩き始める。荷物をさり気なく取り上げるとずしりとくる重さに内心首を傾げた。

「随分早えな。そんな急がなくても良かったのに。」
「ありがとうございます。けど家徒歩五分なので。それよりコレ持ってきたんです。」

受け取った荷物をガサガサと漁るコイツ。近い、近いよお姉さん。なんだか今日は積極的ですね。て、ん?

「酒か!」
「この間商店街のくじ引きで当たったんです。日本酒ですけど平気ですか?」
「平気平気。なんでも呑むぜ。イチゴ牛乳とかコーヒー牛乳で割ったりするけど。」
「それ美味しいんですか?」

くだらない話で笑い合いながら大江戸スーパーへ。俺がカートをガラガラと押し、隣で食材を吟味しているコイツを眺める。あーなんかコレあれだ。夫婦みた…

「坂田さん。」
「うおっ!!」
「?お肉どうしますか?肉団子好きなんですけどそれでも良いですか?」
「おー。てか作れんの?」
「一人暮らしで困らない程度には。坂田さんは器用そうですね。」
「まぁ俺も一人暮らし長かったからな。一通りはできるぜ。」

レジへ行き、金を払う。当然とばかりに出そうとしてくれたけど、んな事出来るかと押し切って俺が払った。元々俺から誘ったんだし。暫くオロオロしてたけど、観念したのか御馳走様ですと頭を下げてた。ホントどっかのぼったくりキャバ嬢とは違うわ。

「お邪魔します。」
「適当に座ってろ。」
「手伝います。あ、台所入っても良いですか?」
「サンキュ。つかどういう意味だ?」
「ほら、台所触られるの嫌いな人って居るじゃないですか。ウチのおばあちゃんがそうだったんで。」
「あー平気平気。頼むわ。」

万事屋に着いてから落ち着く事無く台所へ向かう。後ろからついて来るコイツと話しながら着々と食材を片付けていく。
ついでに下準備も始めるかと腕捲りをする彼女に口元が緩む。隣に立って料理とか不思議な感覚だ。それにしても作った料理がことごとくダークマターになり果てたり、なんにでも納豆が投入されたりしないのっていいわ。うん。

「出来た。」
「おー、旨そう。向こうで煮込みながら呑もうぜ。」
「はい。」

和室に移動し、カセットコンロの火に鍋をかける。正面は少し遠いからと左側に座り、コタツに感動している彼女を斜めからチラ見しつつグラスに酒を注ぐ。俺も幾つか用意はしていたけど取り敢えずは持ってきてもらった日本酒。

「んじゃ乾杯。」
「乾杯です。」

グラスをカチンと鳴らして一口。お互いを労うことに始まり、コタツ談義に万事屋メンバーの話。少しずつ減っていく酒と反比例して高まっていく心音。あー、コレ酒のせいじゃねーわ。今日は酔えねえな。普段店では話さないような内容を、お互いを知っていくように話していく。それが少し新鮮で嬉しくて。
少し経ってから鍋の蓋を置いてくると言って台所へ。冷蔵庫から作ったケーキを取り出す。小皿とフォークも持って和室に戻った。

「坂田さん、適当によそっちゃいましたけど大丈夫でした?」
「あぁ、ありがとな。」

自分の器によそい終わって鍋から目を離した彼女がコッチを見上げた。

「?ケーキ?」
「そ。だってクリスマスだろ?」
「あ…」

ゴソゴソと手荷物を漁る彼女を首を傾げながら見ていると、小さめの箱をコトンと出した。

「被っちゃいました。」

へへ、と苦笑する彼女が蓋を開けるとソコには小ぶりのケーキが2つ。思わず顔が熱くなり、口元を押さえる。だってそれって、ちゃんとクリスマスって分かって一緒に居てくれてるってことだろ?ただの俺の我が儘じゃなくて。

「凄い美味しそうですね。可愛い。」
「あー、作った。」
「作った?コレを?」
「ああ。」

目をぱちくりさせた後フワッと花が咲くように綻んだ彼女に顔を手で覆う。あーもー、反則技多用しすぎだ。

「ケーキは後にして、先にお鍋食べましょうか。」
「おー…。」
「坂田さん、」
「あ?」
「ありがとうございます。」

それは、コッチのセリフだ。

「俺のほうこそ、ありがとな。」

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