「ごほっ、ごほごほ…」
風邪をひきました。熱、寒気、関節の痛み、頭痛、目眩etc…。取り敢えず酷い。一番に医者を思い浮かべたのだけれど、保険証も身分証明も何もないので無理かなと思い至った。重たい身体を引きずりながら大江戸スーパーにやってきた。カートに寄りかかりながらついでに食材や果物も買う。冷蔵庫も空だったんだ。
「あれ?吉田さん?」
「…?」
のろのろと動きを止めて振り返る。いや、振り返ろうとした。いや、振り返るのも辛いんだ。頭がぐわぐわする。暫く目眩が落ち着くのを待っていると声の主が覗き込んできた。
「どうしたんですか?…ってうわっ!!凄い顔真っ赤ですけど大丈夫ですか!?汗も凄いですけど…」
熱いのか寒いのか分からなくなってきた。コレは冷や汗なのかな。ぼんやりと顔を見ていると、声の主は山崎さんだと分かった。
「…こんにちは。」
「あ、こんにちはー…じゃないでしょう!!なんでそんな状態で外に出たんです!?」
肩を掴まれて軽く揺すられる。やめて、気持ち悪い!限界が来て思わずうずくまる。
「あ、あぁ!!す、すいません!!大丈夫ですか!?吉田さん!」
力無く顔を横に振ると、山崎さんがすぐ側にしゃがみ込み、おんぶをされた。普段なら全身で拒否するところだけど今日は無理。
「熱いですね…、医者は行きましたか?」
「…保険、証…ない、ので…」
「あー、じゃあ薬買って行きましょう。カゴを見る限り食材も無いってことかな。後は…」
フワフワとした揺れに身を任せて少しだけ目を閉じた。
────
ふと聞こえた声に目を開けた。そこは見慣れた天井でどうなったんだと内心首を捻る。
「吉田さん、気が付きました?」
「あれ、此処…」
「勝手ながらあがらせて貰いました。気分はどうですか?」
「え?は、はあ。大分良くなりました。」
「良かった。薬も効いたみたいですね。」
薬?
薬なんていつ…
「あ!言っときますけど吉田さんが自分で飲んだんで安心してくださいね。」
意識が朦朧としてましたから記憶が跳んでるみたいですね。そう言って笑う山崎さんにそういえば、と思い至る。家を知っていた事に対しては恐くて聞けない。だって怪しいんでチェックしてました、とか言われても困るし。
「あー、すみません。ご迷惑お掛けしました。」
「いえいえ。あ、お粥作ったんですけど食べれますか?」
「あ、はい、いただきます。」
布団から起き上がって机の前に座る。うん、頭痛も収まったし、寒気もない。どれくらい寝てたんだろうと窓に近づいてカーテンを捲る。すると外は真っ暗で慌ててしまった。
「えっ!?」
「あー、今は夜の8時過ぎです。」
「えぇ!?」
カチャカチャと鍋や器を用意してくれる山崎さん。ま、まさか仕事休ませてしまったんだろうか。どうしよう、土方さんに叱られたりしないかな。
「元々買い出しが終わったら今日の職務は終わりだったんです。」
「えぇ!?」
「はは、だってそんな顔してますもん。」
思わず自分の頬を手で覆う。マジでか。そんなに分かりやすいのだろうか。それにしても折角の休みを私なんかの看病に費やさせてしまうなんて益々申し訳ない。
「俺が勝手にやった事ですよ。」
「!?」
「それより、キッチンとか冷蔵庫の中身とか勝手に使わせて貰っちゃいました。すいません。」
「そ、そんな!私のほうこそ!」
「はは、これじゃあキリが無いですね。」
「う…すいません。」
「じゃあ一つ、俺の頼み聞いてくれませんか?」
ま、まさか高杉さんの事か何か!?す、すみません!私何にも知らないんです!!
「そんな構えなくても大した事じゃありませんよ。」
またバレた!!山崎さんはやはり考えていることが分かるのだろうか。それとも私が分かり易いだけ?
「今日って12月25日なんです。」
「は、はい…。」
「世間はクリスマス一色なんですよね。」
「は、はあ…。」
「だから、一緒にクリスマスを祝ってくれませんか?」
そう言って取り出したのは白い箱。首を傾げて見ていると緩く笑って箱を開けてくれた。
「可愛い…。」
「吉田さんが寝ている間に一旦屯所に戻ってから買ってきたんです。」
中には小さめの可愛らしいケーキが2つ。
「吉田さんはまだ本調子じゃないからお粥で我慢ですけどね。」
明日にでも食べて下さい、と言ってまた微笑む。新八くんといい山崎さんといい、地味組は好青年だなオイ!
「ありがとうございます…。」
「はい。さ、吉田さんも飯にしましょう。沢山食べて、沢山寝て下さい。」
「…はい。」
この後、山崎さんが作ってくれたお粥を食べたのだが、コレがまた美味しい。凄いな山崎さん。山崎さんはガツガツと食べ始めた私を見てクスリと笑い、隣でケーキを食べ始めた。とんだクリスマスだったけれど、山崎さんのお陰で大事にならずにすんで良かったな。