「いらっしゃいませぇ…げっ、出たなモジャ!」
「アッハッハッハ、酷い言いぐさじゃのう。ユキちゃんはおるか?」
「おらん!間違えた、居ませんんん。」
25日の昼過ぎ。いつも通りに働いているとお店に坂本さんが来たみたいです。やっぱりまさちゃんとは何処か馬が合わないみたい。それよりも何しに来たんだろう?
「そろそろユキちゃんアガリじゃろ?」
「違いますぅ。ユキさんはコレから延長してお店を手伝ってくれるんですぅ。」
え、そうなの?でも今日暇だよね?お客さんケーキ屋さんに盗られちゃってるし。つーかなんで知ってんの?
「じゃから今からご飯行かん?」
「行かん。」
コテンと首を傾げる坂本さんは別に可愛くもなんともない。背高いしね。そしてさっきから返事しているのはまさちゃんです。
「すいませーん。」
「ちっ、いつもいつも大事な所で客が来るんですけどぉ。もしかしてモジャ仕組んでますかぁ?」
「ほれほれ客を待たせるんじゃなか。さっさと行かんか。」
しっしっと手で払う坂本さんを見てまさちゃんは凄くキレてる。けどお客さんをそのままにしておけないのか、もう一度舌打ちをして接客に向かった。因みに私は既に着替えていたために対応が出来なかった。
「じゃあ行くかのう。」
あ、行くこと決定なんですね。まあ、どうせ何処かで食べて行こうと思っていたからいいんだけど。
「少し歩くんじゃけどええかのう?」
「はい。」
下らない話をしながら辿り着いたのは高そうな天ぷら屋さん。いや、高そうっていうか高いでしょコレは。無理、無理だよ私には。敷居が高すぎるよ。
「ん?どうしたんじゃ?」
「あ、え、えと。」
「?予約の時間過ぎてしまうんじゃ。」
予約!?いや、そりゃこんなお店なんだから予約制だろうけど。なんで予約してあるの?まさかワザワザ予約してくれたのかな。
「さあ行くぜよ。」
「わっ。」
腰を押されて中に入る。というか近いですね坂本さん。
「あら、坂本さんいらっしゃいませ。お待ちしてましたよ。」
「宜しく頼むぜよ。」
オロオロキョロキョロしている私は田舎者丸出しだろう。…少し恥ずかしくなってきた。
「昼間じゃしな、儂はまだこの後仕事があるんで酒はお預けじゃ。ユキちゃんは何か呑むかいのう。」
「い、いえ。」
カウンターに座り坂本さんが店主に注文する。出された温かいお茶を一口含むと、坂本さんが話し出した。
「本当は宇宙でも連れて行ってあげたかったんじゃが年末は仕事が忙しくてのう。今日漸く数時間だけ余裕が出来たんじゃよ。」
えええ。なんか申し訳ないんだけど。いいの?こんな素晴らしい場所に私なんかと居て。
「折角のクリスマスなんじゃ。少しくらいユキちゃんと過ごしたってバチは当たらんじゃろ?」
「…はあ。」
バチは当たらないけど勿体無いですよ。ヘラヘラと笑う彼といたたまれない私。なんだコレ。
「此処の天ぷらはどれも絶品なんじゃよ。」
目の前のお皿に乗せられた天ぷら。促されて一口食べる。サクッと衣が鳴り、熱さに口を開ける。手で押さえながらゆっくり咀嚼する。
「旨いじゃろ。」
「、はい。」
「たまに接待で使うんよ。結構江戸の天ぷらって天人達に人気なんじゃ。」
「へぇー。」
本当に美味しい。家ではガス台が汚れるから油ものって滅多にやらないんだよね。やっても揚げ焼きだし。やっぱりたっぷりの油で高温で揚げるのと違うのかな。
「ユキちゃん。」
「はい?」
「メリクリ、じゃな。」
「…メリークリスマスです。」
クリスマスに高級な和食を食べて過ごすなんて、社長さんの坂本さんらしい特別な過ごし方だよね。結局この後陸奥さんが来て引きずられて坂本さんは帰っていった。時間が過ぎても戻って来ないので連れ戻しに来たらしい。あ、いつの間にか代金は払われてました。今度御礼言わなきゃな。