メルヘンなメリーゴーランド

平日、ということもあってか園内は結構空いていた。これなら人気のアトラクションも並ぶことなく乗れるだろう。江戸に住んで結構経つものの、此処に遊びに来るのは初めてだった。今までは浮気調査の尾行とかバイトの一環とかでしか訪れた事のない場所。新八や神楽も俺が面倒臭がる事が分かっているらしく、来たいとは言わない。というか、此処に来る金があるなら飯を食いに行く。…なんか涙出てきた。

つーかなんか緊張するんですけど。隣をチラリと見て再び前を向く。いつもと少し印象の違う彼女を見た時に、一瞬息をするのを忘れた。吉原とかの綺麗に着飾ったねーちゃん達とはまた違って、自分に何が似合うのかが分かっているみたいだった。淡い色の着物も、少し派手めの化粧も、全てが彼女の魅力を存分に生かしていた。
つーかなんで俺の周りには暴力女とかストーカー女とかしかいないんだ。こんな(性格が)普通の女久し振りすぎてどうしたらいいのか分からないじゃねーか。

不意に、入り口で渡された園内地図のパンフレットを覗きながら彼女が呟いた。

「へぇ、結構広いんですね。何から乗りますか?」
「んー、どうすっか。空いてるし制覇出来そうだよな。」
「いいですね制覇。じゃあ順に乗って行きましょうか。最初は…」

言葉を切った彼女の視線の先を見ると、其処にあったのはメルヘンな雰囲気漂うメリーゴーランドだった。

「…乗りますか?」
「…おー、まあ乗っとくか?制覇、だろ?」

イチャイチャしているカップルに混ざって中に入る。なんか気まずい。初っ端から気まずいぞ。

「やっぱり馬だと思うんですよね。」

そう言って早々に乗るやつを決めてるコイツ。何、気まずいのは俺だけ?俺も乗るのをサッサと決めてしまおうと周りを見渡すが、いつの間にか周りはカップルで埋まっていた。オイィィィイイ!どっから沸きやがったコイツ等ァァア!?さっきまで空いていた筈なのに。つーかこの辺りだけ密集しているらしい。なんでだよ!

ブーッと発車の合図が鳴り、あたふたとしていると、既に馬に横向きに乗っていたユキがポンポンと自分が乗っている馬の背中を叩いた。

「坂田さん、此処乗って下さい。」
「はっ!?何言って…うおっ!」

ガタンと音を立てて動き出した馬達に焦り、言われた通り、ユキと一緒の馬に乗った。
小さな馬なので密着が半端ない。上下する馬から落ちないように馬の頭にぶっ刺さっている棒を片手で掴む。すると自然と包み込むような形になる。触れ合う脚がなんだか熱い。あー、なんか変な気分に…

「坂田さん」
「えっ!?な、何!?何にも考えてねーよ!?」

どもるな俺ェェェエエ!!これじゃあ考えてたって言ってるようなもんじゃねーか!至近距離で見上げるな。ちくしょーっ!無心だ。無心になるんだ。

「あー、どうした?」
「どっちから回ります?」

あっちとあっち。そう言って指を指すのは二手に別れた道。そうだ、まだまだ今日は始まったばかり。

「…取り敢えず、チュロスでも食わねー?」

別れ道の丁度真ん中に立つワゴンの出店を指差すと彼女はニコリと笑った。

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