HRの時間
朝のHRが始まる数分前。いつもより遅めにやってきた沖田さんに挨拶をする。
「おはようございます沖田さん。」
「おい山崎、さっさと席着きやがれ。」
沖田さんは、本鈴もまだ鳴っていないのに姿勢良く席に着いてキッチリと前を見据えながらクソ真面目な顔つきでそう言った。
「え?でもまだチャイム鳴ってませんよ。」
「んなこた関係ねぇ。もう予鈴鳴ったろ。席に着いて先生を待ちなせェ。」
普段なら坂田先生が来るまで席を離れていても何も言わないのに、と不思議に思いながら席に座る。それとほぼ同時に本鈴が鳴り響き、その数秒後に教室の扉が開いた。
ガラガラガラ
それと同時にガタガタと席に着き始める生徒達を横目に見ながら前を見ると、そこにはいつものやる気の無い銀髪の担任ではなく、副担任のユキ先生が居た。そこで先程の沖田さんの態度になる程と思う。
沖田さんはユキ先生に懐いて…いやそれ以上で、彼女が居る時は人懐っこい優等生になるからだ。それはもうこのクラスでは当たり前の光景で(複雑な気持ちにはなるが)、未だにそれに嫌悪感を抱くのはチャイナさんくらいだろうか。
「はい、皆さんおはようございます。」
「「「「おはようございまーす!」」」」
にこやかに挨拶をするユキ先生に、僕らは声を合わせて挨拶を返す。
少し前に座る沖田さんがキリッとした顔をしながら挨拶をしている。普段は机に突っ伏すか頬杖をつくかして、声なんか出さないのに。
「吉田先生ー、銀ちゃんはどうしたアルか?トイレアルか?」
「坂田先生は理事長に呼ばれたので朝は来れないんだ。だから私で我慢してね?」
「キャホーッ!!やったアル!」
「俺ずっと吉田先生がいいでさァ!」
「はは、ありがとう。今日はお休みは居ないね。それじゃあまずプリントを配ります。」
プリントを配って簡単に連絡事項を話し、滞りなくHRは終了した。
終わると、ユキ先生の周りには数人の生徒が集まる。その中に沖田さんは加わっていないのを不思議に思って沖田さんに聞きに行った。
「いつも側に居たら迷惑がるかもしんねぇだろ。何事も適度ですぜィ。」
「へ、へぇ…」
その割に目はずっと先生を見つめてるけど。一切コッチ見ないけど。
そしてその視線に気付かず生徒と話しているユキ先生はある意味凄い人だ。
「あ、いけない。坂田先生から伝言があったんだ。近藤く…」
ユキ先生の声に反応して俺も近藤部長を見る。すると其処には笑顔で近藤部長を殴る姐御と既に意識のない部長が居て。いつもの光景ながら血の気が引き、口元がひきつる。あの人も懲りないな…。
ユキ先生はその光景を見なかった事にしたらしく、そのまま視線を外した。
「あ、土方くん。剣道部の事で坂田先生から伝言なのだけれど。」
「あ?ったく、俺と話がしたいっつーならそんな回りくどい事しなくてもいいだろ。なんだよ、もう寂しくなったのか?」
そういえば、ユキ先生の前だと沖田さんだけじゃなくて土方副部長も気持ち悪いんだよね。
口元に笑みを浮かべながら教卓に近付く副部長。それを射殺さんばかりの視線で睨み付ける沖田さん。そしてそれらを華麗にスルーするユキ先生。このクラス超コワいんですけどォォォ!
「坂田先生が、今日は他校で会議があるから部活は無しだって。」
一人頭を抱えていると聞こえてきた会話。え、部活無し?ラッキー!新作のミントンのラケット買いに行こう。次の休みまでお預け状態の予定だったもんね。
「はあ?あの天パ…。練習試合が近いのに休める筈無えだろうが。」
「うーん、でも顧問の先生無しでは活動出来ない決まりだから。」
「あ、あの吉田先生!!」
「あ?なんだ総悟。」
応えた副部長に目もくれず、ユキ先生に近付く沖田さん。なんだろう、心なしか頬が赤い気がしたけれど。
「な、なら今日は銀八先生の代わりに吉田先生が部活に来てくれやせんか?」
「え?私が?」
「へ、へい。」
「うーんそうね、分かった。坂田先生に確認しておくね。」
「あ、ありがとうございやす!」
「フ…。」
ぱあっと顔を明るくする沖田さんと、ニヤリと笑う副部長。そして手元の手帳に軽くメモをとるユキ先生。
そんな三人を眺めながら、ラケットはやっぱり休みまで我慢だなと落胆する。それから、今日の部活はあの二人が張り切るから大変だろうな、と長い溜め息を吐いた。