棗Side
「姫様、舞姫がいらっしゃいました。」
「まぁ、早速お通しを。」
「はい。かしこましました。」
宴も終盤。花姫達のガキくせぇイジメで省られている水玉に蜜柑形のくりきんとんを渡して、少し話していたときだった。
中等部校長の元に技術系の総代表が行くと、中等部校長は顔を輝かせた(ように見えた)。
「皆さま、お客人がいらっしゃいました。粗相の無いよう、お願い致します。」
総代表が畏まったように言うと、他の花姫達は顔を見合わせて首を傾げた。どうやら誰か知らないらしい。こそこそと噂をしながら各々場所につく。遠くの襖が開いて、女が一人、頭を下げて座っていた。水色の振袖を身に纏った彼女は、俺が探していた奴だった。
「…お初にお目にかかります、吉田ユキと申します。本日はお招き頂き有り難う御座いました。お伺いするのが遅れてしまい、申し訳御座いません。」
「どうぞお顔をあげて下さいな。此方こそ、不躾なお願いをしたようで。」
「いえ、光栄です。」
「もっと此方へ。」
「失礼致します。」
ユキは深く頭を下げた後、顔をあげて立ち上がった。その仕草一つ一つがとても綺麗で、その視線にさえ胸が騒ぐ。花姫達も惚けた息を吐き出していた。隣にいる水色は百面相をしているし、ルカは驚いている。今井は余り表情が変わっていないものの、凝視している。
ユキは花姫達の視線を浴びながら、一直線に中等部校長に近付く。数メートル離れた処で立ち止まり、再び腰を下ろした。
「お会いできて光栄です。」
「ふふ、そう堅くならずに。」
「お気遣い有り難う御座います。ですが、姫様に見て頂けると思ったら緊張してしまって…。」
「可愛いお人だこと。」
「あの、かきつばたさん?其方の方は…」
「噂でご存知の方もいらっしゃると思いますが…、”水の舞姫”と呼ばれる方です。」
「え?水の舞姫…?」
「それってあの、アリス祭の時の…?」
「クリスマスパーティーで櫻野さんと踊っていらした?」
「まあ、素敵!」
「素敵ね!」
キャーキャーと喚き始める花姫に、自然と眉間に皺が出来る。…うるせー。ユキの声が聞こえねえじゃねーか。それにしても、一度も俺や水玉達を見ようとしない。あくまでも目的は中等部校長、って事だろうか。
「”水の舞姫”の舞、是非見せて頂きたいのですけれど…」
「まだまだ未熟者ですが。」
スッと立ち上がり、部屋の中央へと進むユキ。途端に止む声。何処かから三味線を持った奴が現れ、静かに音が響き渡る。ソレに伴い持ってきたらしい扇子を開き、凜とした眼差しで、ユキが踊り始めた。
何度見ても飽きることは無いだろうユキの舞を、こんなに近くで見るのは初めてだった。今日は幻術も水遁の術も使用していない。それでも一つ一つの動きが、視線が、表情が妖艶で誰もが魅入っていた。
その一瞬にも一生にも思える時間は、彼女が頭を下げる事で幕を閉じた。