戦闘準備開始

「休学届け、ですか。」
「はい…。」

此処は初等部校長室。
北の森で見掛けたペルソナに頼んで連れてきて貰った。その道中、ずっと気になっていたらしいユッキーについて聞かれたので、事実を話しておいた。これで殆どペルソナ…零くんはコッチ側と考えていいだろう。まあ、このまま初等部校長の部下として振る舞ってはもらうけれど。いざという時に蜜柑達を守ってくれるだろう。だって、蜜柑はユッキーの娘だからね。
さて、話は代わるが何故休学するのかといえば、いい加減授業がダルい…んん、体育祭とか面倒…、うん。それも多々あるのは認めるよ。ただそれだけじゃなくて、そろそろ準備をし始めようという魂胆だ。そのためには始終クラスに居るわけにはいかない。裏では翼が駆り出され始める頃だし。

「君は確かアリスで時間移動をして来たんでしたね。」
「、はい。」
「来た当初は混乱していたみたいでしたので、身体年齢に併せて初等部に編入したんでしたね。やはり初等部では何か問題でも?」
「いえ、そうじゃないんです…。皆優しくしてくれてますし、仲間も沢山出来ました。けれど、あの、最近聞いたんです…。」
「…何を?」
「…親友と、恩師の、訃報を…。」

俯いている私には見えないと確信しているのか、ニヤリと笑う気配がした。というか馨ちゃんもユッキーも無事だしー。
まぁ、全て私が消えたとされる時間から後の話。私がその時其処に居たことは知られていない。ユッキーも、馨ちゃんも、周りにバレないように細心の注意を払ってくれていたってことだ。十数年もの間。彼等の生き方を制限したのは非常に申し訳ないし、自分勝手だけれど、それでも生きていて欲しいから。

「…そうですか。アナタは行平先生が赴任していた時に在学していたんですね。」
「はい、特力の…先生でした。」
「親友、とは日向さんの事ですね。彼女は確か不幸な事故で亡くなったんでしたね。」
「はい…。」

よく言う。あの事故が例え本当に偶然だったとしても、其処まで追い詰めたのはアンタだろうが。事故が無くてまだ生きていることになってたら、未だに命を狙っていたんでしょう。

「…先日、縁あって中等部校長先生にお会いしたんです。」

ピクリと反応する初校長。私が花姫殿に居たことは既に調べがついているのだろう。此処数日、花姫殿に居たことも。

「今まであやふやになっていた事実を、姫様に教えて頂いたんです。それからすっかり塞ぎ込んでしまった私を、姫様が心配してくださって…。」

これで花姫殿に居たことは理由がついた。柚香ちゃんのことも馨ちゃんのことも大層気に入っていた姫様だ。その女友達の一人や二人、匿っても可笑しくはないはず。

「確かに顔色がまだ良くない。」

心配するように寄ってくる初校長。顔に手をそっと当て、顔を覗いてくる。
私をこのまま中等部校長に預けても支障がないかを判断しているのだろう。私が柚香ちゃんを誘き出す餌になり得るか。秀ちゃんや昴ちゃん達反乱軍の弱みとなるのか。
私は十数年前に突然姿を消したような旧友、しかも先輩だ。そもそも戻ったことを彼女が知っているかも分からない。そして、今この学園には蜜柑が居る。ならば。

「ふ、いいでしょう。担任の先生方には私の方から連絡しておきます。」
「ありがとうございます。」

失礼します、と校長室を出る。廊下でずっと待っていてくれたらしい零くんが出口へと案内してくれる。何か言いたそうにちらちら見てくる彼に軽く吹き出した。

「ぷっ」
「な、なんですか。」
「ううん。なんでもないよー。」
「…」
「あのさ、お願いがあるんだー。」
「お願い?」

そう、まずは柚香ちゃんと学園の接触を邪魔しなければ。そして、翼達の援護。

「これからさー、危力系の仕事増えるでしょう?」
「!」
「人員も増えるよね?」
「…」
「収集かけるとき、私にも連絡頂戴?」
「!!」

まずは、柚香ちゃんと連絡を取らなきゃね。私のエゴで描く、私の理想の未来を目指す為に。