岬Side
風紀隊による取り締まりと体育祭が始まる。それによって変わり始めた学園。それに加え何かを隠しているナルに、転入生。
様々な問題が浮上し始めた新学期。
「ナル」
廊下で見つけたナルに声を掛けると、方向を変えて一目散に逃げていく。
「おい、逃げるなコラッ」
「逃ゲテマセン」
「じゃあ止まれ!」
「ブレーキ故障中デス」
「故障してんのは頭だろうが。待てってこの…」
クリスマスあたりから鳴海が何か隠している。その手袋で隠された左手。しょっちゅう病院に通って、俺の薬棚を勝手にいじって。…校長室への出入りも頻繁になって。絶対何か隠しているのに。今度の転入生の小泉月だって…。
「あいつ…」
また逃げやがって…。ナルが知っているのかは知らないが、今学園に殆どユキさんは居ない。休学するんだーとか言ってヘラヘラ笑っていた。それを止める事も出来ずに心配しか出来ないのが歯痒い。
けれど、その時ユキさんが数年前に言っていた言葉を掘り返して言ったんだ。
『ミサキチ、私暫く本体は学園を出たり入ったりで居ないからさー。』
『え…』
『側にいてあげてよ。ナルがグレないように。大切なもの、見失わないように。』
『ユキさん…』
『んじゃ、任せたよー。』
ひらひらと手を振って去っていく彼女の後ろ姿を呆然と見ていた。
あの時はまだ子供で力不足な俺はそれしか出来なかった。けれど、それが俺の出来ることで、俺の出来ることを精一杯やったら彼女はいつものように微笑んでくれたんだ。
けれど、俺もナルもいい大人だ。ナルだって大切なものを、ユキさんを見失うことなんてない。アイツはアイツなりに、ユキさんを、生徒を守っているんだ。だから俺も、俺に出来ることをしよう。先ずはナルを何とかしよう、話はそれからだ。
────
「…」
「…いい子ですよねぇ、ミサキチもナルちゃんも。」
「(ビクゥッッ!!)」
廊下の壁に背をつけてナルとミサキチの様子を窺っていた神野センセー。その隣にそっと立ってぽつりと呟くと、神野センセーは大袈裟に肩を跳ねさせて後ずさった。いやー、やっぱこの人面白いわー。
「貴様っ…!」
「まぁまぁ落ち着いてセンセー。」
「くっ…!」
青ざめて冷や汗を流すセンセーにヘラヘラ笑いながら、壁に背を預ける。するとセンセーも五歩ほど離れた位置に落ち着く。遠いっすセンセー。
「センセー、一つだけ忠告…というか助言しに来たんですー。」
「…」
「”あの日”の事、忘れないで下さい。」
「!」
「あの悔しさを、あの歯がゆさを」
神野センセーが、なんだかんだユッキーには心を許していたの知ってる。
「…吉田」
「あれが解るのは、あの時に彼らと接触していた…真実を知る者だけです。」
彼らが居なくなって悲しんだのは誰?あなた方が信頼している仲間は、本当に仲間?
「…ってね。まー寝言だとでも思っておいて下さーい。今私、精神不安定で夢遊病設定なんでー。」
少しおどけて言うと神野センセーは目を見張らせた後、ふっと息を吐いて微笑んだ。
「…肝に命じておこう。」
背を向けてツカツカと職員室に向かって歩いていく神野センセーを、キョトンとしながら見送った。…なんだその無駄な格好良さは。