俺に出来ること

 ルカSide

風紀隊に捕まってしまった佐倉を追い掛けていると、制服を着たままの翼に遭遇した。今井が先頭切って走っていて何か算段があるのかと聞かれたけれど今井は何も考えていなかったらしく、俺達まで風紀隊に捕まってしまったらマズいということで翼に説得された。

「とりあえずお前ら教室戻れ。万が一で蜜柑の処分が軽い場合もあるだろうし、俺も今からツテあたって何とかできねーか頼んでくるし。」
「ツテ…?なんてあるの?」
「んー、なきにしもあらずかもしんない。…まて!あるある!!ツテある!!!」

向きを変えて脚を進めると翼は焦ったような声を出す。

「とにかく、お前らまで風紀隊につかまったらどーすんだよ。蜜柑の件はとにかく俺や殿にまかせて、お前らはもう余計な動きすんじゃねーぞ。」

…というのが先程までの回想なのだが、今俺と今井は草影から覗き見をしている最中だ。

「今井…」
「何?」
「こんなのぞきみたいなマネやめた方が………」
「何で?」
「だって棗に悪いし…」
「どうして?」
「どうしてって…」

寧ろなんで平気なんだと問いたくなるほど不思議そうな顔をする今井に、俺が迷ってしまう。どうしてって…どうしてだろう…。
返答に困っていると、正面から微かに聞こえてきた会話に口を噤む。耳を澄ませると棗の声が聞こえてきた。

「……いいのかよお前それで」
「ん?」
「てめーだってうかつに動けば蜜柑にあの事知られかねないんじゃねーのか。お前が危険能力系へ移った事、まだあいつ知らねーんだろ。」

え…
危険能力系へ移動……!?

「まああいつは今、あの転入生の件で今んとこそれに気付く気配はねーけど」
「その辺は特力の奴らにも口裏合わせるよう頼んであるし、危力系に移動っつってもまだ俺は表向き特力の方にも籍残ってる状態だし心配ねーよ。蜜柑がこの事知れば間違いなく自分達のせいで俺がワリくったと思い込むだろうし、お前らから聞いた今の状態の蜜柑をこれ以上凹ますようなヘマはしねーよ」

確かに、今の佐倉は不安定だ。あの転入生にクラス中が振り回されている。棗だって。けれど、だからこそ今の佐倉には翼が必要なんじゃないのかな、なんて思う。

「それに俺らの今やってる例の任務の件を知られたら、蜜柑に合わす顔ねーだろ…」
「…お前んとこのチーム、まだ捕まえてないのか、安積柚香」
「今回の出動もまたガセ情報。もっともあの話知って以来、あの人が何とか俺らの手からにげきってくれるのを逆に祈ってるよ。あの女が蜜柑の母親だなんて、そりゃあいつ学園に目つけられて当然だよな…」

安積柚香といえばZの時の盗みのアリスの人だ。あの人が佐倉の、母親…?

「もし捕まったらすぐ知らせろ」
「わかってるって。そういえば蛍ちゃんやルカぴょんの身辺に変わりないか?」
「今んとこはな。」
「そっか…まだ安心は出来ねーけど、じゃあ俺いくわ。お前も早く戻れよ。」
「うるせ」

隣に居る今井も呆然としている。けれどこれで学園が佐倉を注目している理由が分かった。翼と棗が自由に動きにくい状況なのも。焦りは勿論ある。けれど。だけど。…俺は俺の出来ることをしよう。ユキ、コッチは任せて。



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翼Side


脚を進めたはいいが、ふと聞きたいことがあったんだと思い出し、振り返って棗を見る。

「あ、そういえば棗。最近ユキに会ったか?」
「…」
「言いたいことがあんだけど、特力にも来てねーっつうし。」
「ユキは…」

少し目を伏せて言い淀む棗。なんだ…?もしかしてアイツに何かあったんだろうか。

「アイツは…」
「棗?」
「休学中だ。」
「休学…?」

なんで、どうして。
聞きたいことは沢山あるのに、それらは言葉にならない。何かあったのか?病気?あぁ俺、本当に何にも知らねえ。

「…俺はユキを守る。…だから、お前はお前の出来ることをしろ。」
「棗…」

迷いのないその瞳にドキリとする。直ぐに視線を外して教室へと歩き始めた棗に頭がハッキリとしてくる。
ユキは後輩で、だけど先輩で。時々見せる大人の表情に魅せられて。話していて楽しくて嬉しくて。
自身の力の無さに落胆した花姫殿の一件。俺だって、アイツ等を守りたいって、ユキの力になりたいって思っているんだ。

「…棗っ!!」

顔だけ振り返った棗に意を決して叫ぶ。俺だって、俺だって…

「…俺だって、ユキの事守るから!」

一拍置いてフッと笑った棗に俺も苦笑して。背を向けた棗を見て、俺も背を向けて走り出した。