後少しだけ

じゃれあいもひと段落した頃、髪の毛をくるくると弄びながらユキ先輩が言った。

「危力の今回の任務内容知ってる?」
「志貴」
「いや、まだ掴めていない。」
「ふーん、まあ簡単だよ。『安積柚香を生け捕りにする事』。」
「「!」」
「小泉月の情報を垂れ流しにして誘い出すだけじゃ物足りず、捕まえる為に危力の人員を割くだなんて柚香ちゃんモテモテだねー。」
「全然嬉しくないですけどね。」

ほんと、全く嬉しくない。溜め息を吐くとユキ先輩がケラケラ笑う。

「今回は蜜柑よりも危力の方が危険なんだー。」

なんて事ないようにユキ先輩は未来を語る。タイムトリップのアリスで、未来を見たりも出来るのかな。詳しい事は聞いた事がないけれど。ただ、ユキ先輩に任せておけば大丈夫、というだけ。

「だから暫くの間危力に混ざる事にしたからさ。」
「ユキ先輩が居れば安心ですね。」

蜜柑も。危力の生徒も。そして、私達も。

「…はあ、もう少し柚香ちゃんは人を疑うべきだねー。」
「疑いますよ?ただ、その対象に先輩が入っていないだけです。」
「私は万能じゃないからね。最低限のサポートしか出来ないよ。」

それでも、先生の命を救ってくれた。後ろに先輩が居るだけでなんて心強いんだろう。

「先輩」
「んー?」
「私は私で精一杯、頑張ります。先輩は無茶しないで下さいね。」
「…」

先輩は少し目を見開いてから眉を下げ、へらりと笑う。

「先輩?」
「そんなキミだから…」
「え?」

志貴がカップから視線をあげ、先輩を見た。先輩は眩しそうに、愛おしそうに目を細めて私を見つめる。あぁこの顔は、在学中幾度となく見てきた、大好きな先輩の顔だ。

「そんなキミ達だから…私も頑張ろうって思えるんだよ。」
「先輩…」
「我が儘で、ゴメン。辛い思いさせて、ゴメン。だけど…」

まっすぐ見据えてくる先輩から目が離せない。

「後少し、もう少しだけ私と一緒に頑張ろう。」
「っはい!」

先輩の言う”後少し”のその先が、私達にとってどんな未来でも。後悔しないように頑張るよ。その時その時を精一杯生きていた、私達の証だから。