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◎ナルちゃんと私


「分かりましたか先輩。」
「はーい、モグモグ。」

僕と先輩にはいくつか”お約束”がある。



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「っ先輩!?」
「え?なーに?」
「なーに?じゃないだろ!?この一週間何処行ってたんだよ!!」
「えー?ちゃんと学園にはいたよー?」
「授業だけ影分身がいたって、俺や柚香先輩も会えないんだから!!心配したんだよ!!」
「馨ちゃんには聞いた?」
「聞いたけど笑ってはぐらかされたんだよ!!」
「あはは、馨ちゃんらしーや。」

笑い事じゃない!いつもいつも突然居なくなって。ふと手を掴んだ時に違和感。赤黒い…?

「!…この怪我、どうしたんですか。」
「怪我?」
「はぐらかさないでよ!!」

無理やり袖を捲る。そこには思った以上に酷く変色した腕があって、思わず息が止まる。

「新術試してたら失敗しちった。」
「っ!すぐ病院行こう!」

手を握って引っ張るが、動かない体。先輩が首を傾げて心底不思議そうな顔をしている。

「なんで?」

目を見開いて止まる。なんで?なんでって…、

「痛い、だろ?」
「コレくらい何でもないよ。」
「酷い怪我、してるんだよ?」
「そーかな?修行では当たり前だったけど。」

この人と、自分達の生きてきた世界の違いを見せつけられた気がした。殺らなければ殺られる世界。俺達がたまに行かされる任務を日常的に行って、それを辛いとか苦しいとか言ってられない世界。俺だって闇に足を突っ込んでいる存在だから、今更非難する気はない。けれど、傷つくことが当たり前になっているみたいで、すごく不安になった。
痛くないように手のひらをぎゅっと握って、懇願するように先輩を見る。

「先輩、我慢しないで。痛いでしょ?」
「なんとも無いって。あ、見てて痛々しいってことー?ゴメンゴメン、でも捲ったのはナルちゃんだよー。」
「うん。痛々しいよ。」
「ゴメンてー。隠すから手離して?」
「心配、だよ。」
「?」
「先輩が怪我してて、痛そうで、心配だよ!」

時々、先輩が俺の代わりに任務に行っていたのに気付いたのは、割と最近だ。先生との話に食い違いがあることが何回かあって。その事をアリスで読んだ薫先輩は悲しそうな顔で笑ってたっけ。
気付くのはいつも事が終わってからで。

「病院が嫌なら俺の部屋に来て。救急箱くらいしかないけど…。治療、させてよ…。」

痛いのは俺じゃないのに涙が出てきた。思わず下を向いた。

「泣かないでよナルちゃーん。」
「、泣いてない!」
「んー、分かった分かった。お願いするよー。」
「…これからも、ですよ?」
「これから?」
「何をするか、言わなくてもいいから。せめて心配だけはさせてよ…。怪我、隠さないで…。」
「…ん、分かった。」

グイッと袖で涙を拭い、にっこりと笑顔を見せる。

「じゃー、部屋行くよ!」
「おいおい、まさか嘘泣きか?謀ったなナルちゃん!」
「約束は約束!」

ホントは嘘泣きなんかじゃないけど、格好悪いからそういう事にしておこう。さっきよりも大股の早歩きで部屋に向かった。




          
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先輩が居なくなったと聞かされたあの日、僕は何も知らなかったし、何も言えなかった。また会えるのかも、何時になるのかも、何も分からないまま先輩は居なくなった。
アリスが制御出来ないものだということは聞いていたけれど、あんなに突然居なくなるなんて想像もしていなかったんだ。

「取り敢えず、何処かに行く時は僕に何か言ってから出掛けること。帰ってきたら”ただいま”を言うこと。」
「おっけーおっけーモグモグ」
「そんなこと言って、先輩この前も黙って何処か行ってたでしょう!」
「お土産美味しかったでしょー。」
「あ、はい。ってそうじゃなくて!!」


先輩との間に交わされた”お約束”がキチンと守られているかは疑問だけど、それでも先輩が僕の所を『帰ってくる場所』として少しでも認識してくれればいいなと思う。