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◎ルカと私


カンッカンッ

東の森で棗を探していた時の事だ。この間のドッジボール以来、何があったかは話さないけれどまた何か考えているみたいだ。少しでも力になりたくて、教室から居なくなった棗を探していた。
暫く森をさまよっていると、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。聞き慣れないその音に自然と音のする方へと足が進む。

カンッカンッ

暫く歩いて見えてきた背中に、思わず身を隠す。しかしその時ベタに小枝を踏んで音を出してしまった。

「ん?」
「あ…」
「あ。ルカぴょんだ。」
「ルカぴょんて言うな!」
「めんごめんごー。」

ヘラリと笑った転入生にたじろぐ。だってコイツの事よく分からないんだ。留年生とか鳴海の先輩とか棗のお母さんの知り合いとか。

「もしかして棗ちゃん探してるー?」

ほら、今だって俺の考えなんてお見通しで。棗の事も子供みたいにちゃんを付けて呼ぶ。

「あ、うん。」
「棗ちゃんならソコ。」
「え?」

指を指された方向を見ると、そこには木にもたれ掛かって地面に座って寝ている棗がいた。

「なっ…」

思わず声をあげてしまいそうになって、急いで両手で口を塞ぐ。棗のこんな穏やかな寝顔、見たことが無かったから。

「さっきまで起きてたんだけどねー。寝ちゃったみたい。」

カンッ

またあの音。なんの音かと思って視線を向けると、遠くに丸太が立っていてそれに向かって何かを投げているみたいだ。見慣れないモノから、手裏剣まである。
そういえば、この間棗が言っていたっけ。

『ルカ。お前はお前であの転入生を見極めろ。』

あの時俺は棗が決めたことならついて行くのに、と不思議に思っていた。佐倉の時だって、結果的には曖昧になってしまったけれど棗は間違っていないんだし。棗の嫌がる事はするつもりはない。
なのに今回に限って、棗はそう言ったんだ。棗は戸惑っていたのかもしれない。棗の、俺達の中に足を踏み入れてきそうな存在に。佐倉の時とは違う、外から照らす太陽みたいな存在じゃなくて。内側からじんわりと暖めてくれる暖房みたいな存在。
年上の余裕、といわれればそれまでなのかもしれないが、それだけではない気がする。親友の息子としてだけ見てる瞳では無いみたいだ。棗だけじゃなくて、俺にも佐倉にも今井にも、鳴海にさえも同じような瞳を向ける。優しくて、慈しんでいて、こっちがむず痒くなるような視線。

穏やかに眠る棗に視線を移す。
ねえ棗。きっとコイツは棗の力になってくれるよね。俺だけじゃ、やっぱり駄目だったから。棗の任務はエスカレートしていて、棗の身体はドンドン悲鳴をあげていて。なのに俺は、一緒にいるしか出来なくて。

「ルカは優しいね。」
「へ?」

唐突な話に間抜けな声を出して視線を向けると、投げるのを止めて空を見上げていた。

「ルカだけじゃない。此処の人達は皆優しいね。」

応えを求めてはいないみたいで、静かに目を閉じていた。風がサァッと吹き抜ける。思わず目を閉じた。

「だから、助けたいって思った。それが私の自己満足だとしても」

風が止み、目を開けると彼女は優しく微笑んでいて。

「守るよ。」

大人とか、子供とか、そんなんじゃないんだ。意志の強さ。それが出来る実力。そのための努力。

「君達は、私が守る。」

その瞳が棗と似ていて目を細める。その強さが羨ましくて、自分が情けなくて。

今はまだ側にいる事しか出来ないけれど、頑張るから。…俺も、頑張るから。