ドラマの撮影でやってきたのは駅前のお洒落なオープンカフェ。席にスタンバイして扉から入ってきた彼女に手を軽く挙げてにっこりと笑う。
「『ごめんなさい遅くなって』」
「『気にしなくていいよ。何飲む?』」
「『あ、じゃあアップルティで…』」
「『すみません、アップルティと…チーズケーキを一つ』」
不思議そうに首を傾げる彼女に笑みを零す。運ばれてきたソレを彼女の方に皿ごと差し出すと、驚いた顔をする。
「『仕事お疲れ様。チーズケーキ好きだったよね?』」
「『っ!うん、有り難う!』」
顔を赤らめて微笑む彼女に俺も笑いかけてから珈琲を一口…
「あれ?名取さんだ。」
「…ぶっっ!」
ぽつりと零された自身の名前に視線を少しだけ移した途端に視界に入った女の子を見て、思わず珈琲を吹き出しかけてしまった。ゴホゴホと咽せて涙目になりながら共演者の子やスタッフの人達に謝る。なんでこんな所に夏目の友人らしい吉田ユキちゃんがいるんだ。
「大丈夫ですかっ?」
「え、ええ。すみません、珈琲が少し熱くて。」
「猫舌なんですか?」
「はは、少しだけ。」
「(キュンッ)わ、私もなんですっ。」
顔を赤らめて話し掛けてくる共演者を受け流しながら、その後順調に進められた撮影。途中彼女を見ると近場で買ってきたらしいクレープを頬張っていて、隣にいるヒイラギは(←呼び出した)渡されたらしいクレープを持ったまま立ち往生していた。その光景がなんだか不思議で、思わず口元が緩んだ。
「すみません、お仕事の邪魔したみたいで。」
「いや、過剰に反応した俺が悪いんだ。そんな事よりどうしてこんな所に?」
「あ、買い物です。なんなら手伝いましょうか?」
笑顔のままピタリと動きを止める。何故彼女が私の予定を知っているんだ?
私はこのドラマの撮影の後、とある社に向かうつもりだった。そこに最近住み着き始めた妖が少々厄介なのだそうだ。障気を撒き散らし小動物を喰らう。草木は枯れ、水は濁る。その妖を退治か封印、追い払う事が今回の依頼だった。
「…ヒイラギ。」
「ヒイラギじゃないですよ?ヤツハラの妖達が噂していたので。」
「はー、まったく。キミは本当に未知数だな。」
「ふふ、自覚してます。」
「けれど駄目だ。君を巻き込む事は出来ない。君は夏目の友人なのだろう?夏目に怒られたくはないからね。」
「気になる話を聞いたんです。」
「…なにかな。」
途端に笑顔を消して話し始めた彼女にコッチも気を引き締める。
「妖によっては自身の血が周りの害になることもあるのだとか。毒素や異臭などですね。」
「つまり、その妖が怪我でもしてるんじゃないかということかい?」
「一概にそうとは言えないですが…。気になったので見るくらいは有りかなぁと思いまして。」
「それは、僕に引けということかい?」
「引くとかそういう話ではなくて…えーと。」
言葉を探すように目線を上にずらす彼女は嘘を吐いている感じではない。
以前見た身体能力と異様な落ち着きぶりから推測するに、彼女も同業者、もしくはその類の者と考えていいだろう。
夏目の友人だからといって警戒を解く事は出来ないけれど、私だって力が温存出来るに超したことはない。
「はあ、まぁいいか。但し、危ないと思ったらすぐに引いて私に任せるんだよ?」
「ふふ、はい。ありがとうございます。」
かくして、異色のコンビは妖退治に出掛けたわけだが、笑顔で話していた彼女達を見て共演者の女性方やスタッフさんが噂していたのは仕方のない事で。後日、名取が質問責めに合うのは別の話。