本質を垣間見る


社に近付くと酷い障気に眉を顰め、口に手を当てる。これは妖にはキツいだろうと、ヒイラギ達は呼ばずにユキちゃんと二人で草陰から様子を窺う。

「酷い空気…」
「あぁ。大丈夫かい?」
「ええ。私、大抵の毒は耐性持ってるんで。」

んー、でも毒とは違うのかな?と首を傾げる彼女に一瞬対応が遅れる。毒の耐性?なんだソレは。

「…耐性って…」
「んー、家の方針?っていうんですかね。食事とかに少しずつ混ぜたりして身体に耐性をつけたんです。」
「!」

家の、方針…?食事に毒を混ぜるのが?あまりの驚きに言葉を失う。だって、そんなの虐待どころの話ではないじゃないか。なのに、なんでそんな風に笑っていられるんだ。

「あ、虐待とかそういうのじゃないんです。寧ろ私の為って感じで。ただ、住んでいた所が特殊だったとしか言いようがないですね。私自身、親にはとても感謝していますし、この事で何度助けられたか分からないんですから。」

そんな過酷な環境で育った彼女が、なんて優しく笑うんだろう。周りと違う事に疑問を感じなかったのだろうか。周りとの違いに、嫌気がささなかったのだろうか。
俺が諦めてしまった道。夏目が諦めてはいけない道。彼女はどちらかを拒絶するのではなく、どちらも広く許容している。それは誰でも出来ることてはなくて。

「名取さん。」
「!どうしたの?」
「あの辺りから障気が。」

彼女が指を指した方向に視線を移す。よく目を凝らすと、そこにいたのは毛が銀色の狼だった。社の近くに生えている大木を背にうずくまっている。あの状態はかなりマズそうだ。

「狼?なんでこんな所に…」
「キョウ…?」
「え?」

ぽつりと零れ落ちた言葉に彼女を見つめる。彼女の目は大きく見開いていて、驚きが全面に表れていた。

「キョウ!」
「あっ!待って、危ないよ!」

ダッと駆け出して行ってしまった彼女に驚きながらも俺も後に続く。彼女が狼の側に膝をつくと、狼は片目を弱々しく開けてフッと息を吐いた。その狼がこちらに攻撃をしてくる様子は無いが、障気も傷口から出ているようなので噂の正体はこの狼の事のようだ。
というかユキちゃんの様子がおかしい。いつもの(と言ってもそれほど付き合いがあるわけではないが)落ち着いた雰囲気ではなく、少しだけだが震えていた。

「ユキちゃん!」
「!」
「しっかりして!この子を助けるんだろう!?」
「は、はい!」
「なら急いで獣医に…」
「いえ、私がやります。」
「え?なにを…」
「今度こそ、私が助けます…!」
「!」

そう言った彼女の目には強い意志が込められていて、気迫に押され一歩離れた。ユキちゃんは狼に向き直って傷口に手を添えた。何をする気だと思った次の瞬間、彼女の手元から光が溢れ出す。
その不思議な光景に目を見張っていると、狼の傷がみるみる塞がっていった。狼の荒かった息も穏やかになっていく。文字通り、”手当て”しているんだ。
本当に、彼女の力は予想が出来ない。けれど手当てが終わり、狼の息を確かめた後に流した一粒の涙を見て、初めて本当の彼女を見た気がした。






思っていた方向とズレた気がしなくもないですが、突然のオリキャラ登場。時々登場します。