妖怪退治

「名取さんっ!」
「あぁ。急ごう。」

最近このあたりの森で木々が薙ぎ倒される被害が多発しているらしい。中級の妖達が家に来て、助けを求めた。先生は放っておけと言ったが、やはりそのままにはしておけず、森まで足を運んだのだ。
其処で久しぶりに出会った名取さん。どうやら俺が探していた妖は彼が追っている妖怪と同じものらしく、とある古い屋敷の井戸に封印されていたものだそうだ。封印の御札が切れかかっているのを不安に思った家主が名取さんに依頼をしたらしいのだが、名取さんが訪れたときには既に封印は解け、妖怪は逃げ出した後だった。責任を感じた家主は依頼を変えたため、退治をする事になったらしい。
俺たちは少し話をして、その後すぐに聞こえてきた木々を薙ぎ倒す音、急いで走り出したのだった。

「はっ、名取さん、その妖怪、そんなに危険なんですか、?」
「あぁ、…大昔に封印された妖らしいんだが、人を好んで喰らうらしい。被害が出る前に何とかしたいんだけど…」
「人を…、喰らう!?」

そんな危険な妖怪だったなんて。早く、何とかしないと。
暫く走ると開けた場所に出た。左手に湖があって、少し離れたところに最近知り合った吉田がいた。

「吉田!?なんで、こんな所に…」

彼女がコッチを振り向いたとき、彼女の背後の草木が揺れ、黒い、大きな口を開けた妖が飛び出してきた。

「っ!危ないっっ!!」
「ヒイラギっ!」

大きく一歩を踏み出すが、まだ距離があって届かない。こんな、こんなに近くにいるのに。悔しくて、それでも精一杯手を伸ばす。ヒイラギが俺の前を走って行く。まるで走馬灯のようにゆっくりと流れる映像。
妖の口が、彼女に触るその瞬間、妖は消えた。…消えた?
直後に響き渡る轟音。ふと彼女のいる所から視線を右に移すと、薙ぎ倒された木々。其処にさっきの妖が横たわっていた。
吉田は何事もないかのように髪をかきあげ、涼しく笑った。

「夏目くん、こんにちは。」
「え、あ、こんにちは。」
「…夏目、彼女は?」
「あ、同じ学校の…」
「夏目くんの友達の吉田です。」

友達、と言われて少し頬が緩む。しかし妖の唸る声で我にかえった。

「名取さん。」
「あぁ。」

名取さんが封印の壺を取り出して、その周りに陣を書いていく。それを彼女は興味深そうに見ている。目がキラキラして子供みたいだ。こんな時に不謹慎だけど笑えてきた。

「夏目、何ニヤニヤしてるんだい?」
「なっ、ニヤニヤなんて…」
「はいはい。まずはアイツを封印してしまおうか。」
「、はい。」

突如目を覚ました妖が悲鳴をあげながら逃げ出した。

『ヒ、ヒイィィイィィイッ!!』
「しまった!」
「ヒイラギ!」
「はい。」

こんな時に先生は何処に行ったんだろう。ヒイラギだけじゃ厳しいかもしれない。体格差がありすぎる。

「さっきのアレを此処に連れてこればいいの?」
「え?あ、あぁ。」
「ふーん。」

少し考えた素振りを見せた彼女は何を思ったのか森の中に足を踏み入れようとする。

「お、おい吉田!危ないから此処にいろって!」
「んー?大丈夫大丈夫。」

そのままガサガサと草木を踏みつけて行ってしまった。

「あ…」
「夏目、彼女は人かい?」
「え?あ、はい。そうですよ。」
「そうか…」

名取さんが何を考えているかは分からない。けれど名取さんも俺と同じ感想で何だか笑えた。

ガサガサッ

「!来るっ!」
「はいっ!」

名取さんと二人で構える。妖がこの陣の中に入ったら封印が始まる。額に汗が浮かぶ。

『ヒ、ヒイィィイッ!!た、助けてくれぇぇえぇ!!』
「いいから早く歩きなさい。」

吉田が妖の頭みたいなところを掴んで引きずってきた。

『頼む、頼むからぁぁあぁ!!』
「そーやって今まで助けを請う人間を食べてきたんでしょう。」
『うわぁあぁぁあっ!イヤダアァァア!!』
「おにーさん、この陣に入れればいいの?」
「あ、あぁ。」
「次に出てくるときは人里に近付かないようにね?じゃないと…」
『ヒッ!!』

吉田が妖をヒョイと陣に投げ入れると、無事封印が完了した。悲鳴の消えたこの場は何ともいえない雰囲気だった。