彼女と信頼

「冷蔵庫が欲しい。」
「れいぞ…なんだって?」

珍しく書類を黙々と処理していた時の事だ。突然部屋にやってきたユキはソファにぐでんと深く座り、やる気の無い目でこう言った。

「だからぁ、冷蔵庫ですよぉ冷蔵庫。」
「なんだその”れいぞうこ”とは?」
「食材を長持ちさせる事が出来る魔法の箱ですぅ。」
「ほぉ、それは興味深いな。魔法関係ならヤムライハが詳しいぞ。」
「そういう魔法じゃないんですぅ。はーあ、ガスも電気も無いなんて。…分かってた事ですけどぉ。」
「その”れいぞうこ”とはどの様な物なのだ?」
「ええ?詳しい構造なんて知りませんよぉ。コンセントに刺せば中が冷えて…」
「こんせんと?」
「…そうか。」
「とうした?何か解決策でもあったのか?」

ムクリと起き上がって真面目な顔をするユキ。そして、次に発せられた言葉に息を詰める。

「ジュダルくんに会いに行こう。」

「え。」
「んじゃ善は急げなのでぇ、今から行ってきまぁす。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待てっっ!!」
「なんですかぁシンさん。」
「ジュダルに会いに行く!?つまりは煌帝国に行くと!?一人でか!?」
「はあ、そうですけどぉ?」
「駄目だ!!」
「なんでですかぁ?」
「なんでって…」

ユキを煌帝国に取られるわけにはいかないということが主な理由。けれどそれをユキに知らせるのもどうかと思い言葉を濁す。

「あー、船旅だぞ。女一人じゃ危険だ。」
「…相手が?」
「馬鹿、お前がだ。」
「ふーん。」

イマイチユキは自分が女という意識が薄い気がする。いや、別に男っぽいとかそういう訳ではなく、自分が強いということを自覚している。女は男に力で適わないと言うが、ユキにそれは当てはまらない。(まあそれはモルジアナもだが。)守られる、ということを知らない。
他にも服装は動きやすい物を好む。まあそれが戦闘の基本だとは思うが。ヒラヒラしたマントや女らしい服装は好まない、というかしない。これは自分の身は自分で守るという意思表示だと思う。いつ、何が起こっても自分が動けるように。
それを頼もしく思うと共に、ほんの少し切なく思う。
今までずっとそうだったのだろうか、と。頼る相手もなく、ずっと孤高の存在で。

「、兎に角駄目だ。」
「ちぇー。」
「俺達では、無理な事なのか?」

何故ジュダルなんだ。何故俺達じゃないんだ。
俺達では、役不足なのか?無意識に手を強く握る。

「さあ?」
「さあって…」
「ジュダルくんが得意だって言ってたから思い付いただけですからぁ。」
「得意?」
「氷の魔法。」
「は?」
「だからぁ、氷の魔法ですよぉ。この国に氷出せる人居ますかぁ?」
「…はぁー」

ジュダルを選んだ至極簡単な理由に脱力する。別に役不足とかではなくて、只単にこの国で氷魔法を使う人材を知らないから。それだけの理由であったことに少しだけ安堵する。

「?どうしたんですかぁ?」
「いや…魔法の事ならやはりヤムライハが適任だろう。」
「でもヤムライハが使うのって水魔法ですよねぇ。イマイチ魔法の原理が分からないんですけどぉ、他の属性も使えるモノなんですかぁ?」
「その辺りもヤムライハに聞けば詳しく教えてくれるだろう。」
「…まあ魔法の事はいいですぅ、メンドイ。」
「アイツも嘆いていたぞ?ちっとも研究させてくれないって。」

面倒臭そうな顔をして立ち上がったユキに笑う。

「そんじゃ行って来まぁす。」
「おう、行ってこい。…ユキ」

ガチャリと扉を開けたユキの背に向かって声をかけると、器用に顔だけ振り向いた。そんな彼女に向かって朗らかに微笑む。

「ジュダルみたいな他国の奴よりも先ずは俺を、俺達頼れ。」
「はぁい。」

分かったのか分かっていないのか。俺が今まで数々の女性や仲間、食客を落としてきた表情、誘い文句を、軽い返事で流したユキに扉が閉まってから落胆する。ほんと、一筋縄ではいかない奴だ。





シンドバッドはあくまでも興味。女としてではなく仲間としての誘い文句。
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