彼女と宴
「南海生物が現れたぞ!」
「今夜は宴だ!」

年に数回、南海生物と呼ばれる超巨大な海獣が沖の警戒網を潜り抜けてシンドリアを襲ってくる。仕留めた南海生物は良質なタンパク源であり、国中で食べる。シンドリアのこの収穫祭は『謝肉祭』と呼ばれる。
そして本日、南海生物がシンドリアに現れ、今しがた俺シャルルカンが撃退したわけだが…。



「はあ?なにふざけた事言ってんですかぁ?」

「い、いや。だから、南海生物を使って料理を作ってくれないか、と…」
「はあ?何言ってくれてんですかぁ?既に夕飯の支度は済んでるんですぅ。それを、今から作り直せ?ナマ言ってんじゃねぇですよコラァ。」
「ス、スミマセン…」

所在なさげに佇む我が王になんとも言えない気持ちになる。王様、ジャーファルさん、そして俺の男三人は厨房にてユキに交渉を持ち掛けていた。しかしまさかの反撃。助け船を出そうにも俺も恐くて口出しが出来ないでいた。しかしそうも言っていられないのでなるべく明るく口を出す。

「ま、まあまあユキ落ち着けって。今夜の宴は年に数回しか無ぇ貴重な祭なんだ。それに、酒も飲み放題だしな!」
「飲み放題ぃ?」
「おう!」

お?これはいけるんじゃないか?ユキは何だかんだ言って大酒呑みだしな。ホッと行きを吐こうとしたその時、ユキの顔を見て止まる。

「そんなんだからこの国は財政難なんですよぉジャーファルくん。」
「ス、スミマセン…」

矛先がジャーファルさんになった。雰囲気に飲まれたのか、ジャーファルさんまで萎縮してしまっている。

「いやでも、この祭を目当てにシンドリアに来てくれる人も居てだな。」
「余分な物までご馳走してたら赤字なのは当たり前ですぅ。」
「う…」

ごもっともな意見に反論も出来ずにいると、ユキが溜め息を深く吐いた。

「料理を作るのに条件が一つですぅ。」
「な、なんだ?」

王サマの声が明るくなる。王サマが命令だと言えば料理を作らせることくらい出来るのに、それをしないのはユキにもこの国の一員として楽しんで宴に参加して欲しいからだ。
ユキは大人だ。きっと、王サマの考えにも気付いている。だからこその妥協案。譲れない事があるのは、ユキもこの国の事を気に入ってくれているからで。

「南海生物の一部を残しておいて下さい。保存食にして他国に売りつけます。」
「「ユキ…っ」」

じーんっ…
感動している。王様とジャーファルさんが感動している。
すぐに後ろを向いて部下達に指示を出し、準備に取り掛かったユキに俺もふぅと息を吐いた。
国民に漸くユキを紹介、自慢出来る絶好の機会(実はこれも王様の狙いの大きな一つなのだ)。ウキウキとする王様に苦笑して俺も準備に取り掛かる為に厨房を後にした。
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