彼女と王子
「俺は貴女が嫌いです。」
昼食の片付けが済んだので一眠りしようと木の上に落ち着いた時の事だ。先日此処シンドリアにやってきた煌帝国の皇子、煉白龍が私を見上げながら、睨んで言った。
「ふーん?」
「いつもそんな風に飄々としていて、努力もしていないのに強いと言われていて。」
「へーぇ。」
すごくどうでも良かった。けれど、ふと思い出すのは面をした部下達。私が隊長に就任した時もだけど、入ってくる新人達が毎回同じ事を言っていた。
「だから、俺は貴女が嫌いです。」
「ははっ」
「…なんですか。」
「いや?よく言われてたんですよぉ、似たようなこと。」
「(よく言われてた…?)」
「新人の部下には殆ど言われてましたねぇ。」
『隊長、俺貴女の事が嫌いです。配属されたからには力を尽くしますが、俺は貴女を認めていません。』
「…何笑っているんですか。」
「いえ?その部下達にいつも言っていた言葉を貴殿にも贈りますぅ。」
全ての表情を消して、冷たい声でキッパリと言った。
「『どうでもいい。』」
「!」
「『キミにどう思われようと、私にはなんの関係もない。興味も無い。』」
「…」
「『消えろ──…目障りだ。』」
「!!!」
万人に好かれようなんて更々思っていないので、これは本音。当然、私とは根本的に合わない人物だって多々いると思う。
だから構うな。
目を閉じて寝る体制に入ると、気配が遠のいて行くのを感じて口元を緩めた。懐かしいな、なんて部下達を思い出して眠りについた。久し振りに見た夢は木の葉での何気ないものだった。
────
暫く呆然とした後、言葉を飲み込むと同時に白龍の目からは涙が溢れ出した。そのまま踵を返して走り出し、長い廊下の隅の柱に頭をつけて立ち尽くした。
ボロボロボロボロ
「うわっ白龍!?なんで泣いてんだよ!」
「なっ、泣いてねーよぉ!」
「いや泣いてるだろ!?」
「うるせーー!!うわぁぁぁぁぁんっ!!」
偶然通りかかったアリババが思わず声をかける。けれども一向に落ち着く様子が無いので、アリババは様子を見ることにしたのだった。
・
・
・
「お、落ち着いたか?」
「…」
「なんかあったのか?」
「…ユキ殿に…」
「ユキ?」
「嫌いだと、言ったんです…」
「そうか、嫌いだとって…はあ!?」
「…」
「え、は?なんで、お前ユキの事嫌いなのか?」
「…見かければ昼寝しているか、誰かとお茶しているかのどちらかじゃないですか。俺、ああいう人は苦手で。」
まあ確かに。けれどアリババはユキが人並み以上に働いているのを垣間見ていた。コックは他にもいるものの、毎食何十、何百人もの食事は作るだけでも大変だろう。
それに加え、料理長という位にいるユキは経費やレシピなどを考えたりもしているらしいし、他にも様々な仕事をしているのだ。例えば市場への買い付け。一人では到底持ちきれないような重さの食材を、一度に運ぶとか。夜遅くまで仕事をしている文官の人とかに夜食を作ったりとか。最近では畑も作ったと聞いた。
「うーん、でもどちらかというとユキは働き過ぎだぞ?一時期シンドバッドさんが休めって命令してるのを見たことがある。」
「……強いっていう噂があります。努力もしていないのに。」
「あ、白龍はまだユキの練習試合見たこと無いのか。」
「はい。」
「ふーん、一度見てみるといいよ。俺もあれは驚いた。まあ、滅多にやらないから此処では一種の名物になってるんだけどな。」
白龍はその話も聞いたことがあった。けれど、それなら尚更気に食わないのだ。才能の差だと言われればそれで終わりなのかもしれないが、自身のように努力をしていても実らない奴がいるのに。なんで努力もしていないのに実るんだ、と。
無意識に拳に力を込める。
「なに、そんなに気になるなら1日ついて回ってみれば良い。許可するぞ?」
「わあっ、シンドバッドさん!?いつから其処に!?」
「ほんの数分前だ。で?どうする白龍くん。」
「……でも」
「?どうした?」
「…俺、彼女に言われたんです。…消えろ、目障りだ…って…」
思わず目を瞬かせてアリババとシンドバッドは顔を見合わせた。ユキがそんな事を?でも彼の様子から嘘でない事が窺える。
「なあ白龍くん。」
「…ぐすっ、はい。」
「”好き”の反対って何か知っているか?」
「は?え、と…”嫌い”ですか?」
「まあ色々な説があるけどな。”好き”の反対は、”興味が無い”だ。」
「…」
「君はユキに興味を持った。其処から嫌いという結論に至るには、まだユキの事を知らなさすぎる。」
確かにそうかもしれない。アリババ殿の事だって表面だけ見て決めつけていた。ならば、ユキ殿の事だって…。
「でも…」
「ん?どうした?」
「興味無いとも言われましたぁぁぁっ」
「え!?そ、そうか、うーん…」
このあとシンドバッドとアリババは顔を見合わせて思案していた訳だが、結局シンドバッドが泣いている白龍に向かって取り敢えず明日ユキについて回る事を命令したのだった。
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