彼女と買い出し
彼女を見かけたのは偶然だった。
今日の分の修行が終わり、アラジンとくだらない話をしながら廊下を歩いていた時だ。時刻は夕方を過ぎ、そろそろ各々の家に灯りがともり始める。

「ユキ!」
「ん?アリババくん、アラジンくん。」
「ユキさんこんな時間に何処に行くんだい?」
「市場ですよぉ。」
「市場?」
「今からか?もう閉まってるんじゃ…」
「じゃ、おやすみなさぁい。」

サッサと歩いて行ってしまう彼女に俺達は顔を見合わせてから急いで追いかけることにした。いくらシンドリアといっても夜に一人で街を歩くのは危険だろうと思ったからだ。それに、彼女のことをもっと知りたかった。

既に空は暗くなり始め、祭りの日でない今夜は静かだ。市場に着くと殆どの店が片付けをし始めていた。

「うわあっ、僕市場って初めて来たよ!」
「でも店も殆ど閉まっちまってるな。まぁこんな時間だしな…。ユキ、何探しに来たんだ?」
「特に決めてる訳ではないですけれどぉ。」
「は?」

どういうことだろうと凝視してみるが、応えは貰えないらしい。すると彼女は一つの店の主に話しかけた。

「ちはー。」
「お、ユキさんいらっしゃい!今日は結構量があるけど大丈夫かい?」
「んー、平気。」
「そうかい、今詰めるよ。」
「いつものってなんだい?」
「ん?あぁ、コレだよコレ。」

其処にあったのは少し形の悪い果実や野菜、小ぶりや傷のついた魚だった。売り物にならないようなやつだ。それと売れ残りの商品。

「ユキさんはさ、売れ残った商品を全て買い取ってくれてるのさ。」
「え?」
「夜と早朝、1日2回来てくれているんだがね。夜に残ったもの、朝に足りない物を買っていくのさ。」
「え?でもコレって売り物にならないような商品ですよね?」
「あぁ、まあ普通はそうなんだがな。ユキさんが廃棄するくらいなら安く売ってくれって。」

ガハハハハと笑うおじさんからユキに視線を移す。

「だって鮮度や品質は変わらないんでぇ。食費って結構かかるんで、コッチも助かるんですよぉ。」
「王様って一番良いものを食べてるイメージがあるんだけど、違うんだね?」
「俺達もシンドバッド王にそれはどうかと思ったんだがね。仕入れ値は安くなるし、俺達は助かるし一石二鳥だろうって。ま、その通りだからなぁ。」
「ですよぉ。ジャーファルさんには許可を頂いてますしぃ。食費が浮いた分国民に還元できるなら、それに越したことはないじゃないですかぁ。」
「流石ユキさんだ!そうだ、コレ昨日嫁さんが作り過ぎちまってな?ユキさん良かったら食べておくれよ!」
「いいの?ありがとぉ。じゃ、また明日ー。」
「おー!ありがとな!」

大きな木箱を2つ、軽々と頭の上に持ち上げてユキはサッサと行ってしまった。慌てて俺達は後を追いかける。

「ユキ!俺持つよ!」
「僕だって!」
「ええ?無理だと思いますよぉ?」
「いいからいいから!」

ゆっくりと下ろされた木箱を一つ持ち上げようと足腰に力を入れる、が持ち上がらない。

「ふーん!!」
「はぁ、はぁ、僕には無理なようだよ。ユキさんは力持ちなんだね。」
「そういうわけじゃないですけどねぇ。」

ヨイショと言いながら軽々と木箱を持ち上げるユキ。マジでか。

「ほんと、どこにそんな力があるんだよ。」
「まぁ、私の場合はチートな能力ですからねぇ。」
「ちーと?」
「んん。」

それ以上話す気はないようだ。ユキとはバルバッドからの付き合いだが、あまり自分の事は話さない。強いというのもこの間の一件で知ったばかりだ。
さっきおじさんに貰った甘味を分けてくれたユキはサッサと厨房へ行ってしまった。俺とアラジンが顔を見合わせたとき、ジャーファルさんが声を掛けてくれた。

「こんな所でどうしたんですか?」
「ジャーファルさん。今ユキと市場に行ってきたんですけど…。」
「ああ、彼女のお陰で食費は以前の3分の1になったんですよ。」
「へえ。」
「シンドリアは難民を受け入れている為、結構財政的に厳しい所があるんですが、彼女が来てから大分助かっているんですよ。」
「ユキさんて凄いんだねぇ。さっきも重たい木箱を軽々と持ち上げていたんだよ。」
「あぁ。確かに彼女はマスルールの攻撃も軽々と受け止めますからねぇ。」
「「ええ!?」」

マスルールさんの!?だ、だってマスルールさんはファナリスで、凄い力なのは周知の事実で…。ユキの謎は深まるばかりだ。考え込み過ぎてジャーファルさんが居なくなっているのに気付いたのは数分後の事である。
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