彼女と魔法
まだユキが此処シンドリアにきて間もない頃の事だ。

王達がバルバットに旅立ってから仕事の合間にやっていた新たな魔法の研究。数日の徹夜の後にフラフラとした足取りで辿り着いた銀斜塔。其処でヤムライハはユキと出会った。
寝不足が原因なのか怪しい笑みを浮かべたヤムライハが放った魔法は暴発、四方に飛び散る結果となった。至る所の壁に蒸発音が響き渡る中、暴発した魔法の片鱗が寝ていた少女に向かっていくのがわかった。

「!しまった、危ないわよ!逃げて!」
「すぴー」
「寝てる!?この大爆音で!?」

新たな魔法も間に合わず彼女に魔法が当たる、そう思った瞬間。魔法は彼女の後頭部に当たり、向きを変えて近くの壁に当たって事が収まった。

「…痛い」

たった一言。抑揚もなく発せられた言葉に目を見張る。

「アナタ、何…?」
「?」

彼女の周りのルフはとても不思議だった。決して触れる事はないのに、まるで恋焦がれるかのように羽を伸ばす。

「あ、最近雇われましたコックですぅ。」
「コッ…ク、あなたがあの?」

あの、と言ったのは彼女について様々な噂が城内を密かに騒がしていたからだ。マスルールの蹴りを難なく受け流すとか、シャルルカンの剣技をモノともしないとか。どんな巨体の怪物かと思いきや、王と楽しそうにお茶をしていたとか、ジャーファルさんと本を眺めてにこやかに談笑していたとか。乱暴なイメージを覆すような噂もあった。華やかな食卓を彩っている噂の主が、こんな華奢な女性だったなんて。
ガシッと彼女の手を掴む。

「私はヤムライハ。アナタに凄い興味があるわ!!」
「ユキでぇす。」
「研究させて貰えないかしら!?」
「私これから市場に行かなきゃなんでぇ。」
「そうなの…残念だわ。時間が空いたらお願いね!!」
「そんな事よりぃ。」

そっと手を外されて顔を覗き込まれる。

「ちゃんと寝てますぅ?」
「あ…、いえ。今さっき研究がひと段落した所だったの。それで新作の魔法を試したら暴発してしまって。ごめんなさい、怪我はない?」
「大丈夫ですけどぉ、寝不足でやるから失敗するんですよぉ。後でお茶持っていかせますから早めにお休みになってくださぁい。」
「え、ええそうね。ありがとう…。」

いつの間にか彼女のペースにのせられて、気付いたらユキは城内へと足を進めていた。後ろ姿をそっと見送って先ほどの魔法を思い出す。
周りを見渡せば所々に抉れた壁と瓦礫。それ程の魔法に当たって傷一つないなんて。

「腕がなるわ!」

先程までの眠気やダルさは吹っ飛んで再び高ぶってきた感情を胸にウキウキと部屋へと戻る。けれどその数分後、届けられたハーブティーによって気持ちが落ち着き、また暴発してはいけないと思い直して大人しく睡眠をとることにしたのだった。

その後、ユキを研究するために城内を探しまわる日々が続くのだが、彼女を捕まえるのは至難の業、というのは別の話。





魔法の衝撃はくる。ボールが当たった感じ。
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