小太郎ver.
大通りから一本外れたこの場所は光も然程入らない静かな場所。そこに最近開店したというこの薬屋があった。
胃薬やら傷薬やらを使用した際の効果は絶大で、仲間内で徐々に有名となりつつある店だ。
攘夷志士の間で有名となることは良い事ばかりではない。薬は毒にもなり得るからだ。薬と称して麻薬やら毒物やらをこの街に広げる訳にはいかぬ。
噂の真偽も含め、自身の目で確かめる為に本日訪れたのだった。
「いらっしゃい」
「邪魔をする」
さして音のしない扉であったのだが、店主は俺が店に入ると自然と声をかけてきた。薬草の匂いに混じり、ふわりと煙草の匂いが鼻を掠めた。
「よぉ小太郎、久しぶりだな」
落ち着いた声色に見覚えのある容貌。少し気怠げに話すその男は確かに自分がわざわざこの薬屋を訪れた理由のひとつであった。
「やはりお前だったか、シカマル」
「お、さすがだな小太郎。まだ開店して間もないのに情報が早ぇじゃねぇか」
ニヤリと笑うその姿にほっと息を吐いた。どうやら緊張していたらしい。店内をくるりと見渡し、奥に少し目を向けてからシカマルに問う。
「ナルトと…ユキ殿は居らぬのか?」
「あぁ、今日は2人とも出かけててな。ナルトはともかく、ユキにも会いに来たのか?」
「あぁ、漸く噂のユキ殿に会えると思ったのだが」
「噂?」
怪訝な顔をするシカマルにふっと笑みをこぼす。ああ、随分とあの頃に比べて丸くなった。出会ったばかりの2人は2人以外は信用しないとばかりに分厚い仮面を被っていた。それが徐々に剥がれていく中で、彼らの中心がそのユキであるという事は銀時や高杉も知るところだ。
「噂と言っても攘夷志士の間での噂ではない。散々お前とナルトから聞いていた、という意味だ」
「俺達から?」
珍しく驚いたらしいシカマル。それに笑いつつあの頃の記憶を思い出す。
「あぁ、事あるごとにユキ殿の名前を出していた。俺たちは殆ど面識のないユキ殿について結構詳しいと思うぞ」
「気持ち悪ぃ」
「それくらいお前達が自然と口に出していたという事だ」
シカマルは少し考えるように手を口元に添え、視線を外した。彼もまた、あの頃を思い出しているのだろう。
「…知らねぇうちに随分と気を許していたんだな」
「なんだ?」
苦笑をしたシカマルは、なんでもないと誤魔化したが追求はしない。少しだけ照れ臭そうにも見えたからだ。
「さて、近頃巷で噂の攘夷志士様が、しがない薬屋に何用だ?」
「噂の攘夷志士ではない桂だ。最近出来たというのにすでに攘夷志士の間で話題に上がるほどの薬屋だ。何かあってからでは遅いから様子を見に来たのだ」
チラリとシカマルが俺に視線を向けて答えを促してくる。ヤツの希望の答えかは分からぬが、思ったことをそのまま伝える。
「要らぬ心配であったがな」
シカマルが静かに口角を上げた。彼にとって満足のいく答えであったようだ。
シカマルとナルト達の店であるならば、何も心配はない。寧ろ、こちらには得しかない話である。攘夷志士はどうしても怪我が多いので、信頼出来る薬屋や医者は貴重なのだ。
「ま、贔屓にするのは結構だが、あんまでかい怪我はすんなよ。めんどくせぇから」
そして何よりも。
昔と変わらぬ友が、こうして此処に居るのだから。
忍にとって情報漏洩は御法度。ナルシカにとってユキの事は特に重要度は高い。攘夷組にはそれを無意識に溢せるほど気を許していました。
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