総悟ver.

とある暖かな日。
江戸に来て数年。漸く真選組も江戸に根を張り、人々に定着し始めた。空には武州では見かけなかった船が飛び、ターミナルが聳え立つ。攘夷戦争終結後、急成長を続ける江戸だが、変わらないものも確かにある。

そんな変わらない風景の一つである団子屋でサボ…警備をしつつぼんやりと通行人を眺めていた。
後ろ暗い奴なんかは制服を見つければそれだけで行動が怪しくなるのだから、こうして座っているだけでも立派に職務は果たしているのだ。立派な警備である。

「あ、総悟くんだ」

ぼんやりしていた最中、ふと若い女の声が聞こえた。俺のことをそう呼ぶ知り合いは多くない。居ても食事処や甘味処のジジィかババァだ。なので若い女となると知り合いには思い付かず、新聞などを見て俺のことを知ってる町娘であろうと推測する。

真選組は芋侍といえどミーハーな奴はいるし、実際黄色い声をあげる女共が野次馬に居ることもある。
視線は送らずにいたが、視界の端で声の主がこちらに向かってくるのが分かる。少し面倒だなと思いながらちらりと視線を向けると、その懐かしい姿に息が止まった。

「久しぶりだね。元気だった?」

え、無反応なんだけど。もしかして覚えてない?とオロオロするその姿はあの頃と全く変わっていなくて。

「…こりゃあ驚きやした。勿論覚えてますぜィ」

良かった、と微笑む彼女に自然と口角が上がる。
彼女は武州にいた頃、近所に住んでいた人だった。薬草に詳しく、村では医者のような立場だった。実際は医者の資格は持っていなかったそうだが、怪我をした時や腹痛の時など、よく世話になったものだ。

そして、俺の姉上も。

隣を促せば嬉しそうに座り、俺は店主に団子を2人前追加で頼む。運ばれてきたお茶に口をつけ、ふぅと息をついた彼女はあの頃と見た目が変わらないように見える。俺より少し上くらいか。

「テレビとか新聞でよく見てたから元気なのは分かってたんだけど、見かけたからつい声かけたくなっちゃって」

突然声かけてごめんね、と眉を下げる彼女に気にする事はないと視線を前に戻す。

「いつから江戸に?」
「つい最近だよ。家族と一緒に薬屋を始めたところなんだ」

あの頃は医者ということもあり、落ち着いた年上のお姉さんだと思っていたが、どうも今の印象としては年上とはいえ少し幼く感じる。あの頃に比べ、気が抜けているような。

武州にいた頃、家族の話を聞いた事がある。あの頃は離れて暮らしていたらしいが、この江戸で一緒に暮らし始めたのか。
ふわふわと微笑む彼女にこちらも微笑む。

「なら、これからは会えますねィ」

遊びにいきやすと言えば、彼女は是非来て!と嬉しそうに笑った。
家族である弟2人について嬉しそうに話すのを聞きながら想像をする。弟でこれほど可愛がっているのなら、歳は俺くらいかもう少し下かもしれない。20歳過ぎても可愛いと弟が言われるかは微妙なところだと思ったからだ。
まぁ、後日紹介してもらった時に想像は大きく覆される事になるのだが、今の俺は感心して相槌を打っていた。

「俺以外の誰かに会いやした?」
「ううん、街中で見廻りしている人達は見た事あるんだけど、知らない人ばっかりだったよ」

だから話すのは総悟くんが最初かなぁ、なんて空を見上げながら話す彼女。その言葉に自然と口角が上がる。それを意識して、誤魔化すように運ばれてきた団子を口にする。

「同じ江戸に居るんだし、そのうち会えるでしょ」

そうしてパクリと団子を食べ、美味しいねぇなんてニコニコとする彼女にあの頃が重なった。
俺たちが武州へ行くって伝えた時も「そうなんだ、気を付けてね」とまた明日ね、くらいの随分と軽い別れだったなと思う。素っ気ないと思われそうだがそうでもなく、
その距離感が家族とも道場の奴らとも違って案外居心地が良かったのだ。それを懐かしく思って彼女の名前を呼べば、あの頃と同じように少し首を傾げて微笑んだ。

「俺もしばらく内緒にしておきまさァ。その方が面白そうなんでね」

分かった、と笑う彼女に笑みを浮かべる。
知れば会いたがるであろう奴らを思い浮かべつつ、もう少しだけこの人を独占させてもらう事にした。
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