土方ver.
よく晴れたとある日。
池田屋での大捕物も落ち着き、日々減らない書類を自室で片付けていた。
真選組は田舎者の男所帯だから仕方がないのかもしれないが、もう少し書類仕事ができる奴は居ないものだろうか、と短くなった煙草を灰皿に押し付けてため息を吐いた時、部屋に近づく足音が聞こえ目線を障子へ向けた。
「副長、薬屋の方がいらっしゃいました」
「分かった。すぐ行く」
煙草を灰皿に押し付け、火が消えたのを確認して刀を腰に差す。カラリと障子を開ければ、丁度近藤さんが歩いてきて片手を挙げて笑った。
「お、トシ。今からか?」
「あぁ、噂ではあやしいもんだったが、調書を見る限りは問題無さそうだった。噂の信憑性を確かめてやろうかと思ってな」
「俺も行こう!お妙さんも件の薬屋の事言ってたんだよなー!」
「言ってたっつーか盗み聞きだろそれ…」
日常となりつつある事に思わずため息が漏れる。楽しそうに話す近藤に相槌を打ちつつ、薬屋の情報を頭の中で整理する。
開店したのはおよそ一年前。大通りから外れた静かな路地にあるその薬屋はここ最近街の住人の間で密かに話題となっているそうだ。定食屋のババアに聞いた話では、腰痛からシワ改善など効果は多岐に渡るそうだ。
キャバ嬢にも話題にあがるほどならば、その効果はあながちまやかしという訳でもないのだろうか。
真選組は仕事柄どうしても怪我が多い。まぁ最近はそれよりも近藤さんの打撲痕の方が頻繁なんだが。よく効くという噂が本当ならば取り入れない理由が無い。
そういう理由で商談を持ち掛け、本日呼び出した訳だ。
機嫌の良さそうな近藤さんに続き応接室にたどり着くと、近藤さんはガラリと遠慮なく障子を開けた。
「いやー、お待たせして申し訳ない!ご足労いただき、ありがとうございます!」
「こちらこそお声掛けありがとうございます」
座ったまま綺麗に礼をした女が顔を上げた。その懐かしい声、そして容姿に思わず息が詰まった。
「、お前は…」
■沖田side
近藤さんと土方が部屋の前で硬直しているのを見つけて、目的の人物が来ている事がわかった。硬直している近藤さんと土方を無視して部屋の中に顔を出した。
「ユキさん来やした?」
「あ、総悟くん。お邪魔してます」
「ええ、昨日ぶりでさァ。近藤さんも土方さんもどうしたんですかィ?そんな阿呆みたいな顔して」
2人の阿保面は変わらないが、先に覚醒したのは近藤さんだった。
「えぇぇぇぇ!?ホントにユキ先生!?なんでココに!?総悟知ってたの!?」
「へぃ。昨日も会いやしたから。呼び出しがあったってユキさんに聞いたんで、俺も同席することにしたんでさァ」
立っていても仕方がないので、さっさと中に入りユキさんの隣に座る。ユキさんが近くに置いてあるポットから急須に湯を注ぎ、茶を入れてくれたので、それに礼を言ってから一息つく。それを見て近藤さんは笑い、土方はため息を吐いてから俺たちの向かいに座った。
「それにしても久しぶりだなぁ。先生、いつから江戸に?」
「昨年です。家族と越してきてのんびりと薬屋やってます」
「そうかそうか、弟さんでしたっけ?」
「そうなんです。すごく頼りになるし、可愛いんですよ」
ぜひお会いしたいなぁと朗らかに笑う近藤さんを見て、彼女の家族2人を思い出す。歳は彼女よりも上だから弟ではないし、どう考えても可愛い部類の男ではない。それでも嬉しそうにはにかむユキさんに言葉を飲み込んだ。まぁ、人は多面性なのだからそういった面もあるのだろう。きっと、おそらく、多分。
土方も黙ってユキさんを観察していたが、漸く落ち着いたのか煙草を取り出して火を付けた。副流煙勘弁してほしい死ね。
「それにしたって先生はあの頃と変わらんなぁ」
「いや近藤さん、変わらなさすぎだろ。寧ろ幼くなってねぇか?」
俺より上だったよな?と眉間に皺を寄せる土方にユキさんは、女性に年齢を聞くなんて無粋だねぇと笑う。
まぁ、確かにどう見ても土方より年上には見えない。俺より少し上くらいに見える。それは俺も再会した時から思っていることではあるのだが、この人の独特な雰囲気は誰に真似できるものでもなくて、特別追求はしていなかった。
「まぁ、見た目通りの歳だよ。あの頃は大人っぽく見えるようなお化粧をしてたからねぇ」
「大人っぽくなりすぎじゃねぇか?10そこそこの餓鬼だったって事だろ?そんな餓鬼がどうやったら20代に見えるってんだよ」
「マジですかィ。女は化粧で変わるとは聞きやすが、まさかそこまでとはねィ」
「いや、そんな訳ねぇだろ!どう考えたって化粧じゃ追いつかねぇだろォォォ!」
ケラケラと笑うユキさんに毒気を抜かれ、土方は再びため息を吐いた。
あの頃、近所に住んでいた年上のお姉さんが、今こうして土方にとっては年下の女性として目の前に居るのだから、複雑な気持ちは分からなくもない。まぁ正直、俺にとって彼女の年齢はそこまで問題じゃないので知ったこっちゃねェが。
「そういえば総悟はいつユキさんと再会したんだ?」
「一年くらい前でさァ」
「いや結構前ェェェェ!!」
とりあえず一年分くらいは土方を出し抜けたので満足する事にした。
土方ver.のくせに総悟くんが最後を締めるという…。
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