俳優
ディスコはあまり好きでは無い。少し前、確かにそう言ったはずなのに煌々と光るライトに照らされ薄く汗をかいた錦くんは随分無邪気に笑っていた。
そんな彼のさらさらとした髪から透ける表情に、そういえば彼は流行りを楽しむのが実に上手な人であったと久方振りに思い出す。本当に彼は何事も上手に熟すのだ。女遊びも夜遊びも。"1番仲のいい男友達"だって上手に演じてみせるものだから本当に大したものだと何処か冷めた心の内で思う。
「ンだよ、ボーっとしちまってよ。なまえが来たいって言うから連れてきてやったんだぜ?」
『ん〜?錦くんがあんまり楽しそうに踊るからびっくりしちゃっただけだよ』
「そりゃあ楽しいんだからそうだろうよ。……そんなに浮かれてるように見えるか?」
『そりゃあもう』
「だったら……テメェも巻き添えだ!」
『きゃっ』
私のものよりもずっと大きな手で両手を引かれて錦くんの胸に飛び込む。そのまま登ってきた手が私の頬を両手で挟むと錦くんの髪で外界との間にカーテンがひかれて私の視界は錦くんの存外男らしい顔のみになった。ディスコで浮かれる男女、正しくそれだ。
『どうしたの』
私たちの間柄に相応しくない奇行について思わず尋ねると錦くんは秀眉を顰めて難しい顔をした。
「俺が楽しいのはなまえが居るからなんだぜ」
騒がしい室内でもしっかり耳に届いた低音に思わず錦くんの瞳をじっと覗いてしまった。
覗いてしまって、後悔した。
『うそ……』
「本当だ」
これは1番仲のいい男友達を演じる男の瞳じゃない。けれどこの瞳を知っている。
「惚れた女と行くのならどこだって幸せに決まってる」
今まで気づかなかった。気づかせて貰えなかった。しかし思い返せばその瞳はいつもすぐそばにあった。どこまでを演じていてどこからが本当なの。名俳優ね、錦くん
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