いっとき
三毛縞斑という男は幼い時分から特別発育が良く抜きん出て"しっかり者"であった為いつだって世話を焼く側の人間だ。まわりの"おともだち"に対しても"かみさま"に対しても"幼馴染"に対しても。
しかしそこに本人の意思がひとつもない訳ではなく、人の世話を焼くことを悦びとしている節があったし、当人もそういった旨の言い回しを積極的に使用しているので周囲の大人たちは皆挙って彼に世話役を預けた。
そうして当たり前のように彼はそれを受け入れてこの歳まで生きてきた、と思っていたのだけれど。
「こおーんなにたくさんなまえを想って働く俺に君はそろそろ報いるべきなのでは?」
『う〜ん……そうだねぇ』
正直、今更対価が欲しいと言われて驚いてしまった。確かに恋人でもない唯幼馴染だというだけの男に普通は荷物持ちから始まり料理洗濯掃除にネイルもヘアセットもやらせたりはしない。そんなことはわかっていた。けれど斑がそれを望んで何時も私の先回りをするように全てに手を伸ばして来るのがいけないのでは、と少しばかりの言い訳をしてみるもそれにしたって彼の働きぶりは報酬を取るに値する十分なものだった。だから、まあ今更かという思いはあれど報いることは構わない。
『例えば?なにが欲しいの』
「物じゃなくていいんだ」
『はあ……』
さいですか、と小さく声に出し途中で放られていた小説の続きに手をかける。彼が突拍子もないこと自体は今に始まったことでは無いのだ。
「おおーい、考えることをやめてしまったのかなあ?」
『考え中。ちょっと待って』
「そんなに難しいものでもないと思うぞお!」
視界を遮るように私の顔の前でぶんぶん手を振る斑の腕を掴み仕方なしに顔を上げると想像していたよりもずっと近くに斑の顔があったので思わず仰け反る。
『なに』
「なんだと思う?」
きらきらと輝くエメラルドが私を捕らえて離さない。なんだと言うのだ全く。
『……わかんない』
「じゃあ、俺が教えてあげよう!」
斑の大きな一言と共に後頭部に大きな手が回され、誘われるがままに軽く触れた唇が間抜けなリップ音を残した。
『はあ?』
なにしてんの。そう続けたかったが視界を占める斑のエメラルドがそれを許さない強い光を発する。
「俺はなまえにだけ、報われればそれでいいんだ」
愛おしげに細められた瞳から目が離せない
もしも私が君に報いたらその先は───。
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