恋と呼ぶにはもう遅い
吹雪の隙間に覗く、長く美しい髪が宙に舞った。


今日のコースと天候を鑑みるにそんなに大きなジャンプはするべきでない。


白銀の上に倒れ込んだ彼の姿が私の心に染み付いた。






















先の大会で負った怪我により寝込む彼の元へ来客があった。マスコミでもコーチでもなく、リーグの委員長だというその人は一言二言、彼に話したかと思うと「良い返事をお待ちしております」とだけ言って早々に去っていった。


『お茶淹れてきたところだったのに。随分とせっかちなひと……』


その人が去っていったドアを眺めながらむくれっつらの幼馴染に近寄ると彼はトレーから自分のカップを受け取りドアを睨んだ


『なに。何か言われたの……?』


サイドテーブルにトレーごとカップを置き彼の居るベッドへと腰掛けると彼、グルーシャは深くため息をついた


「別に。ただ……怪我が良くなったらジムリーダーをやらないか、って」
『ジムリーダー?、確かにグルーシャはポケモンバトルもとっても強いけれど……』
「きっとあの人は、ぼくが復帰できないのを分かってるんだ」
『そんな……』


グルーシャの足を軽く撫でると彼はふ、と笑った。経過も良いって病院の先生は言っていたけれど、本当にもう雪の上を滑ることはかなわないんだろうか。


「そんなに悲しい顔をしないで……」


私の頬にグルーシャの骨ばった手が添えられる


「今回の話、受けてみようと思うんだ」
『そう……』
「なまえのおかげだよ。きっとぼく1人だったらこんなに早く前を向けなかったと思う
ずっとぼくの傍になまえが居てくれたから、ぼくの心は折れることなく、次へと進める。……ちょっとサムいこと言っちゃったな」


いつになく饒舌なグルーシャから紡がれる言葉の数々を1つずつ咀嚼して飲み込んでいく。じんわりと眦が湿って胸が暖かくなる


『サムくなんか、ないよ……。きっと、ジムリーダーをするグルーシャも、素敵だと思う』
「うん、ありがとう。
ふ、泣き虫はまだ治らないな」


グルーシャの微笑みに零れた私の涙を優しくかさついた親指が拭ってくれる


『泣かせたのはグルーシャでしょ……』
「そうだね、責任もって全部ぼくが拭ってあげる」









愛と呼ぶにはまだ少し早い
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