まぶたに透ける青と永遠 11
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!緑谷出久は焦っていた。先程まで帰ろうかと撤退の意を示していた敵が、いきなりこちらに向かってきた。黒いモヤの敵に死柄木弔と呼ばれた敵は、触れたものを「崩壊」させる"個性"を使い、相澤の肘にダメージを与えた。蛙吸の頭を握られたが、間一髪相澤がその瞬間"個性"を消した為、蛙吸は無事だったが。相澤が大男にやられた。「脳無」と呼ばれた大男は、力も耐久力もオールマイト並みだった。さっき緑谷達が倒した水難エリアでの敵とは格が違う。すぐさま蛙吸を救け、逃げなければ。
「手っ、放せぇ!!!」
ワン・フォー・オールのコントロールのことは頭になく、とにかく蛙吸を救けて逃げなきゃ、と緑谷は死柄木に"個性"を使って、殴りかかった。
「スマッシュ!!!」
手応えはあった。腕も折れていない。こんな時に力の調節ができた!と緑谷が喜んだのもつかの間。煙が晴れて見上げると、100%の攻撃を受け止めていたのは死柄木ではなく脳無で、攻撃も効いていないようだった。
「いい動きをするなあ・・・。スマッシュって・・・オールマイトのフォロワーかい?」
攻撃した腕が脳無に掴まれる。死柄木は蛙吸と峰田に両手を向ける。絶対絶命のピンチ。
「ゥゥガゥッッ!!!」
逹紀が死柄木の頭を蹴って踏み台にし、脳無の喉元に噛み付くのと、USJの出入口が大きな音を立てて開かれるのはほぼ同時だった。なんとか蛙吸と峰田への攻撃はそらせたが、脳無の皮膚が思った以上に固く、首も太いので牙で圧迫する
事は出来なかった。おまけに、首に喰らい付かれているというのに、少しも反応しない。緑谷の腕を放そうともしないし、逹紀を振り解こうともしなかった。
「・・・いったぁ。なんだよ・・・まぁいい。コンティニューだ。」
逹紀は脳無に牙を食い込ませたまま、出入口を見やる。オールマイトだ。出入口付近の敵を瞬く間に蹴散らし、相澤を抱き上げる。オールマイトがこちらに視線をよこしたので、逹紀は脳無から距離をとる。逹紀のその動作の間にオールマイトは緑谷、蛙吸、峰田を救い出していた。
「皆、入口へ。相澤くんを頼んだ。意識がない早く!」
逹紀もオールマイトの元へ向かい、相澤の安否を確かめる。両腕の骨折だけでなく、頭も強く打っており、血も多く流している。重症なのは間違いなかった。オールマイトは依然険しい表情のまま、敵に向かって行こうとする。
「オールマイトだめです!あの脳みそ敵!ワン・・・僕の腕が折れないくらいの力だったけど、ビクともしなかった!きっとあいつ・・・」
「私の牙も通らなかった。しかも喉元噛まれてるのに、振り払う素振りも無かった・・・」
逹紀はその時を思い出し、首を振る。得体の知れない気持ち悪さが、脳無にはあった。暗い表情をする緑谷と逹紀に、オールマイトはいつものように笑顔を見せて、「大丈夫!」とピースをしてみせた。次の瞬間、脳無に向かっていくが、やはり攻撃は効いていないようだった。尚も攻撃を続けるオールマイトに、死柄木が口を開く。
「効かないのは"ショック吸収"だからさ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね・・・それをさせてくれるかは別として」
「わざわざサンキュー!そういうことなら!やりやすい!!」
オールマイトは脳無の腰をつかみ、バックドロップを仕掛ける。爆発のように大きな音と爆煙が発生した。今この場のほとんどの者が、オールマイトが勝つと信じて疑わなかった。
だが、逹紀は違った。相澤を運ぶ緑谷達の横で入口を目指しながら、オールマイトの様子を伺う。脳無の弱点をつらつらと述べた死柄木。わざわざ弱点を晒しても勝てる算段があるのだろうか。それに、授業開始前の相澤と13号の会話も気になった。本来オールマイトが参加する筈だった授業に来れなくなった理由は、おそらく活動限界があっての事だろう。そうだとしたら、オールマイトは無理を押してここに来ている筈だ。
爆発の粉塵が晴れると、血を流すオールマイトがいた。地面に突き刺さっているはずの脳無は、黒霧のワープゲートによってオールマイトの脇腹あたりをえぐっていた。そして「チャンス到来だ」と言う死柄木。それを見た瞬間、逹紀は走り出していた。だが、黒霧に辿り着く前に、死柄木に邪魔されてしまう。
「おっと・・・邪魔をするなよ。今いいところだろ・・・?
さっきもちゃっかり邪魔してくれたし、今度はちゃんと相手してくれよ。」
死柄木は逹紀のスピードについて来ており、流石はこの奇襲を先導しているだけあった。その両手を巧みに使い、逹紀を上手く黒霧に近付かせないようにしていた。黒霧はオールマイトの身体をワープゲートに飲み込ませながら、淡々と計画の内容を話す。
「・・・そしてあなたの身体が半端に留まった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」
そんな事絶対にさせない、と目の前に立ちはだかる死柄木に玉砕覚悟で飛び掛かろうとした時。緑谷が飛び出した。
だがオールマイトに辿り着く前に、黒霧のワープゲートに行く手を阻まれる。緑谷がワープゲートに飲み込まれる寸前ーー
「どっけ邪魔だデク!!!」
爆発と共に、爆豪が飛び出した。爆豪は黒霧の身体部分を狙い、そのまま地面に押し倒す。それと同時に、脳無の身体がパキパキという音を立てて凍らされて行く。逹紀をジリジリと追い込むようにしていた死柄木も、切島の攻撃によって離される。轟の"個性"で脳無が凍らされた事によって、拘束の手が緩み、その隙にオールマイトは抜け出すことが出来た。
「平和の象徴は、てめェら如きに殺れねぇよ」
轟が挑発するように敵にそう告げる。
黒霧を人質に取られ、オールマイトも逃してしまい、死柄木が「ピンチだなあ・・・」と呟く。だがまるでこの状況を楽しんでいるかのようで、気味が悪かった。逹紀はオールマイトの側により、出血した脇腹を見やり、鼻を鳴らす。オールマイトは大丈夫だと言うように、逹紀の頭を撫でてくれた。
爆豪が黒霧の身体に体重をかけながら、その弱点を暴いていく。爆豪によると、モヤ状のワープゲートになれる場所は限られており、そのモヤで実体部分を覆い、弱点を見せないようにしていたらしい。
「全身モヤの物理無効人生なら、猫女や俺らが攻撃した時に『危ない』っつー発想は出ねぇもんなぁ!!」
やはり物理攻撃が効く実体部分は存在していたようだ。図星だと言うかのように黒霧が身じろぎするが、爆豪は少しでも怪しい動きをしたら爆破する、とヒーローらしからぬ言動で脅した。
黒霧も脳無もこちらに拘束されているにも関わらず、死柄木は余裕を見せるように体の前で手を組みながら、脳無に指示を出した。半身を氷漬けにされているのを物ともせず、脳無は無理やり氷を破壊して立ち上がる。そして見る見るうちに崩れた箇所が再生して行った。死柄木は脳無の"個性"は"ショック吸収"だけでなく、"超再生"もあると言った。そんな事、出来るのは奴しかいない。逹紀は嫌な予感を感じた。
すぐに脳無は黒霧を拘束する爆豪へと向かっていった。逹紀は間に合うか分からなかったが爆豪の元へ走る。押し倒すような形で爆豪に覆い被さる。だが、爆豪を庇おうとした逹紀ごと、オールマイトが突き飛ばす。もの凄い爆風が吹き、思わず変化を解いてしまう。何より今日1日で肉体を酷使しすぎていた。変化させ続けるのは体力を使う為、そろそろ限界だった。あまりの爆風に煽られそうになるが、がしりと肩を引き寄せられた。鍛えられた胸元に顔を押し付けられる。そして甘い匂い。顔を確認するまでもなく、爆豪だった。
「かっちゃん!地井さん!?」
緑谷は先程まで違う場所にいた逹紀が移動しており、さらに変化を解いているのに二重で驚き、爆豪に抱き締められているような状態に顔を赤くした。
「避っ避けたの!?すごい・・・!ていうかその状態・・・」
「違えよ黙れカス」
相変わらず緑谷には輪をかけて辛辣だった。しかし明らかに弱っている様子の逹紀を突き放したりはしなかった。
「テメェ、さっきから余計な事ばっかしやがって・・・そのせいでこんな事なってりゃザマァねえな。」
「ごめん・・・爆豪くん。救けるつもりが、救けられちゃって・・・」
爆豪は相変わらず不遜な物言いだったし、救けられた事も認めなかったが、逹紀もお礼を言われるために救けた訳ではなかった。それよりも、敵前でこの状態でいる方が危ないと思い、爆豪の胸に手をつき離れる。人間の姿に戻ってしまったうえ、戦えそうにはなかった。横に立つ切島に「無理すんなよ」と心配され、礼を言っておいた。
オールマイトにつらつらと自論を展開する死柄木から目を離さずに、フラつく体に鞭を打って立ち上がる。そんな逹紀の前に影が出来る。爆豪だった。
爆豪は、逹紀を庇うように敵との間に立っていた。それがどういう意図であれ、今の逹紀には非常に助かった。