まぶたに透ける青と永遠 12
オールマイトのサポートをして、この場にいる全員で敵を撃退しようと息巻く切島達に、オールマイトは逃げろと言う。尚も引き下がる轟と緑谷に、オールマイトは「プロの本気を見ていなさい」と言って制した。死柄木は脳無と黒霧にオールマイトをやるよう命令し、自分は生徒を足止めしようと勢いよく向かってきた。焦る切島に、逹紀も狙われるなら自分が一番最初だと覚悟を決めた。だが、オールマイトが深呼吸して目を見開いた時の気迫で、その場にいた全員が慄いた。生徒に向かっていた死柄木も思わず後ずさり、距離を取る。オールマイトはその気迫のまま脳無の拳を拳で受け止めた。真正面からの殴り合いだ。猛烈な拳の応酬の連続に、黒霧も近付く事が出来ない。
「"無効"でなく"吸収"ならば!限度があるんじゃないか!?
私対策!?私の100%を耐えるなら!さらに上からねじふせよう!!」
オールマイトは血を吐きながらも脳無に続け様に拳を打ち込む。その拳一発一発が、100%以上の力が込められているのだ。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!敵よ、こんな言葉を知ってるか!?
Plus Ultra !!!!!!!」
オールマイトは渾身の一撃を撃ち込み、その拳を受けた脳無はUSJの屋根を突き破って屋外に飛ばされていった。脳無の"個性"を全てない事にしてしまう程の圧倒的なパワー。これがNo.1に君臨するトッププロヒーローの力だった。それでも全盛期より衰えたとオールマイトは言う。それを聞いた死柄木はイライラしながら首を掻きむしった。
「チートがぁ・・・!全っ然弱ってないじゃないか!あいつ・・・俺に嘘教えたのか!?」
耳に入ってきた"あいつ"という言葉に逹紀は反応した。死柄木のバックに誰かいるという事か。この襲撃の首謀者は他にある。もしそれが、オール・フォー・ワンだとしたらーーー
これ以上はオールマイトに任せて退こうと言う轟や切島の声が聞こえる。だが逹紀はオールマイトと死柄木の会話を少しも聞き漏らすまいと必死だった。奴との関わりが少しでもあるのなら、死柄木をここで逃すわけにはいかないと思ったからだ。「さぁどうした!?」と凄むオールマイトに、死柄木はガリガリと首を掻きむしって狼狽えた。
「脳無さえいれば!奴なら!何も感じず立ち向かえるのに・・・!」
死柄木の言葉から、脳無は命令に従うよう作られているという事が伺えた。確かに逹紀が噛み付いた時も、オールマイトの気迫にも、一切動じていなかった。あれは、恐怖という感情さえ無い故だったのだろうか。
焦る死柄木を、黒霧がたしなめる。脳無との戦闘でダメージを受けたオールマイトなら、死柄木と黒霧だけでもやれるかもしれない、と。それを聞いて死柄木は再びオールマイトに向かって行く。逹紀もオールマイトの元へ行こうと足を踏み出すが、上手くいかずに前のめりに躓いてしまう。「地井!?」と切島が慌てて支えてくれる。それまでブツブツと何かを呟いていた緑谷も、思わず逹紀を見る。しかし、逹紀はオールマイトだけを見つめていた。
「・・・オールマイトッ!」
逹紀の悲痛な叫びとも取れる声に、緑谷が動いた。目にも留まらぬ速さでオールマイトと黒霧の間に割り込む。逹紀でさえ目で追う事が出来なかった。
「オールマイトから離れろ・・・!」
緑谷は黒霧の胴体部分を狙ったようだが、相手の方が上手だった。黒霧のワープゲートから、死柄木の手が現れ、緑谷の頭を掴もうとする。だが、何処からともなく銃弾がその手を捉えた。
「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!!」
飯田が、雄英の教師を引き連れて戻ってきた。「ゲームオーバーだ」と言い、帰ろうとする死柄木に、銃弾が放たれる。続けざまに、13号のブラックホールが黒霧を襲い、死柄木ごと吸い込もうとしてする。だが、間一髪のところで逃してしまった。逹紀は切島に支えられながら、オールマイトと緑谷の様子を確認するため目を凝らす。オールマイトは土煙で見えにくいが、トゥルーフォームに戻りかけている。緑谷は両足が変な方向に曲がっており、足を投げ出してうつ伏せになっている。どうやら両足骨折しているようだ。だがどちらも命に別状は無さそうだったので、一安心した。
「切島くん、ありがと。もう大丈夫だよ。」
敵はもう居なくなったし、激しい動きをしなければフラつく事も無いので、切島にお礼を言って自力で立つ。全身にだるさを感じるが、立てなくなるほどでは無かった。
「おう、そっか。緑谷ぁ!大丈夫か!?」
切島は逹紀が平気なのを確認すると、すぐさま怪我をしている緑谷の方へ駆け寄っていく。逹紀はそこでハッとする。オールマイトはトゥルーフォームを秘密にしているんだったと。このままでは切島にトゥルーフォームがバレてしまう。切島に再び声をかけようとした時、切島とオールマイトの間に地面から生えてきたように壁が現れた。
「生徒の安否を確認したいから、ゲート前に集まってくれ。ケガ人の方はこちらで対処するよ。」
プロヒーロー・セメントスが"個性"で作り上げた壁だった。逹紀はオールマイトの様子が気になったので、切島達には先に行ってもらう事にした。怪我では無いとはいえ、体調が芳しくない事は事実だったからだ。セメントスが作り上げた壁から向こう側をひょい、と覗く。オールマイトが片膝を立てて座り込んでいた。流血しているが無事な様子を確認でき、逹紀は思わずオールマイトに駆け寄る。
「オールマイト・・・!」
逹紀は座り込んでオールマイトの首に抱きつく。オールマイトは震える逹紀の背中をぽんぽんと優しくさする。逹紀自身、こんなにも安心している自分が不思議だった。今まではオールマイトに迷惑をかけないようあえて距離を取っていたのだが、オールマイトも居なくなってしまうと考えただけで、自分でも驚く程恐ろしくなった。
逹紀にとってオールマイトは形式だけとはいえ家族だ。両親を殺された逹紀にとって、残された家族はオールマイトだけだった。その最後の家族も居なくなってしまうかと思ってしまったのだ。
「ありがとう。逹紀。」
オールマイトの慈愛の篭った眼差しに、逹紀は涙が溢れていた。緑谷はそんな逹紀とオールマイトの様子に、驚きを隠せなかった。
逹紀は念の為オールマイトや緑谷と一緒に保健室に運ばれ、細かい傷だけリカバリーガールに治癒してもらった。"個性"の使い過ぎによる倦怠感は、体を休める事でしか回復しないそうだ。保健室のベッドに横になると、疲れがどっと来て眠りそうだった。だが、オールマイトにどうしても話しておきたい事があった。脳無の事だ。
「オールマイト・・・あの、脳無って呼ばれてた敵の事なんですけど・・・」
逹紀はオールマイトの方に視線だけ向けて話し掛ける。緑谷を挟んでいるので少し遠かったが、オールマイトは上半身を起こしてくれたので目線を合わせるのに支障はなかった。先を促すようにオールマイトが頷いたので、逹紀は続ける。だが眠気と疲れが襲ってきて、今にも瞼が閉じてしまいそうだった。
「"個性"を複数持っていました・・・もし奴の仕業だとしたら・・・」
オールマイトも同じ事を考えているんじゃないかと逹紀は思っていた。あくまで可能性の話であって、証拠も何も無いが、ピンポイントでオールマイトを狙ってきた事もあって、偶然にしては出来すぎているのではと思ったのだ。だが、それ以上は言葉が続かなかった。疲労の限界を迎え、逹紀は寝落ちしてしまった。緑谷が逹紀の事をオールマイトに詳しく聞こうと思った所で、丁度塚内が入ってきた為、中断となってしまった。
そのまま逹紀は死んだように眠り続け、目が覚めたのは臨時休業となった日の夕方だった。